Novel-Short

□Happy Birthday to YOU!
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「えー…今日は人気企画『有名人突撃リポート☆』をお送りしていますが、ラストを飾るのは最後にふさわしい超人気者……あっいらっしゃいました!」

数人のスタッフと共にエレベーターを下り、テレビ局内の廊下をこちらへと歩いて来る長身の人物をターゲットに、いざ突撃。

「お待ちしてましたチャンミン氏!」

「お!?あー…アンニョンハセヨ」

いきなりドタドタ数人が自分めがけて突っ込んで来たもんだから一瞬怯んだ彼だったが、カメラに気付くとすぐさま柔らかい表情を作る。
おぉさすがスーパースター。プロだ。
そして目線を下げてマイクを向ける私の姿を認めると、軽く微笑んで一言。

「ではチャルガー」

うっかり見惚れてしまい時の止まった私を放置し、軽く手を挙げて颯爽と立ち去るチェガン・チャンミン。
……ってコラコラ待て!!

「そんなことおっしゃらず!一言だけ下さい!」

慌てて追いかけてマイクを突きつけたら、ちょっと迷惑そうに片手で制される。

「僕もうすぐ収録始まるんですけど。沙緒さん今日は何ですか?」

「先日のバレンタイン、チャンミン氏はどう過ごされましたか?」

「そうですねぇ。バレンタインなので…ファンの皆様からの愛を食べました」

照れてはにかむ姿が可愛らしい。
きっとテレビの向こう側では多数の女性ファンがノックダウンされているに違いない。
正直、カメラが回っていなければ私も悶絶したいくらいだ。

「それはさぞ美味しかったでしょうね。そして本日2月18日といえば…お誕生日おめでとうございます!」

「ありがとうございます」

「お仕事の後のご予定は?もしかして…素敵なお相手と?」

芸能リポーターのお約束、無粋なインタビュー。ずずぃっと距離を詰めるマイク。
だが一流芸能人はそんな下世話な質問にも慣れっこで、後ろ暗いことなど何も無いとでも言う風に回答までスマートだ。

「素晴らしい友人達が祝ってくれるそうです。でも男ばかりなので、引き続き皆様の愛を募集しています」

「では宛先はSMエンターテイメントもしくは当番組までどうぞ。チャンミン氏、素晴らしい一日をお過ごし下さい。お忙しい所ありがとうございました。」

「いえいえ」

ペコリと一つお辞儀してから、手を振ってカメラに笑顔を残しスタジオへと吸い込まれていく姿。
その光景をバックに、今度は私がカメラに向き直る。

「以上、『有名人突撃リポート☆』をお送りしました」

締めの言葉で結ぶと、イヤモニからいつものように中年司会者の軽快な声が入ってくる。

『いやーチャンミン氏カッコイイですねー!男から見てもドキドキしてしまいます。ところで沙緒さん、僕へのバレンタインチョコどうして手作りじゃなかったんですか?』

「あははーすみませんミン・ヤネン氏。今年はチョコ作り失敗してしまいましたー」

『期待してたのにひどいなぁ。さては沙緒さん、どうせ今年も色気の無いバレンタインだったんでしょう』

「ほっといて下さい愛しのペットがいるからいいんです!それではこの辺でスタジオにお返ししまーす」

ハイOK−!の掛け声と共に、本日のロケは無事終了。
イヤモ二を外しながら、頭の中でこの後の予定を練る。

一旦スタジオに戻ってー…番組終わったら今日の反省会してー…あの企画書は明日に回させてもらおっと。
うん、夕方には退社できるから買い物して帰っても間に合うよね。あ、アレも引き取りに行かなきゃ。

タレントさながらの分刻みのスケジュールに時計を見ては焦るけど、今日は私にとっても大事な日だから手抜きだけはしたくなかった。


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