Novel

□大射礼特訓編
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はぁはぁ…ここまで来ればもう大丈夫かな。



「そんな所で何をコソコソしている?」

ギクッ。
その声にそー…っと振り向いた。ら、予想外の光景が。

「…ソンジュンこそ何やってるんだ?ユンシクも」

「いや、これは…」

人気の少ない裏庭に逃げてきたつもりが、どうやら先客がいたらしい。
その先客とは、草むらに座って書物を読んでいたイ・ソンジュン。
…と、彼の肩に頭を乗せスヤスヤ昼寝しているキム・ユンシクだった。
この二人、顔を合わせたら口喧嘩ばかりしてると思ってたのに、いつの間にこんなに仲睦まじくなったんだろ?

「ご、誤解するな。これは大射礼に向けて訓練していたところ、キム・ユンシクが居眠りをしてしまって…」

「誤解って何が」

何を慌てて釈明してるんだかこの人は。仲良くなったのなら微笑ましい良いことじゃないか。
改めて見てみれば、傍にある木の枝からは輪になった布が垂れ下がっている。
今はユンシクの右手は力なく下りているが、恐らくあの布を引っ張ることによって握力を鍛えていたのだろう。



「君の方こそどうした。何かから逃げているかのようだが」

「…その通りです。こっちも大射礼の特訓中だったんだけど、あの人まるで鬼みたいで容赦ないん」
「誰が鬼だと?」

……サァアー……

背後からの気配に血の気が引いた。

「よくも俺から逃げられると思ったもんだな、おい」

「ご…ごめんなさいっ!」

口よりも先に、反射的にもう体が飛び出していた。

「あ、この野郎まだ逃げる気か!!」

「コロ先輩、キム・ユンシクが起きますのでお静かに願います」

「う…老論がこの俺に偉そうに指図しやがって…!」

悪態をつくその口調はソンジュンへの敵意に満ちているものの、声の大きさは律儀に抑え気味の物へと変わっていた。
クソッっ逃がすか、と舌打ちして追いかけるジェシンを見送りつつ、自分達とは方法が違うがアレはアレで脚力を鍛えるという意味では理にかなっているな…とソンジュンは一人感心していた。


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