Double

□8:お礼と約束
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机の上には走り書いたメモ。
右手には携帯。

一つ息を吐き、「よし」と気合を入れた。

メモと画面を交互に見ながら親指でボタンを押していく。
11個の番号を押し終わって耳に当てれば、まもなく聞こえる呼び出し音。
途切れたのは3コール目だった。

『はい』

「あ、チャンミンさんのお電話ですか?えっと僕…」

『玲緒ヒョン、ですか?』

「え?あ、ハイ」

自分が名乗るより先に向こうから当てられたことに少し驚いた。
それを感じ取ったのだろう、電話越しに苦笑する声。

『ジェジュンから番号を聞いてましたから』

なるほど名前が表示された訳ですね。
私もジェジュンヒョンにチャンミンさんの番号を教えてもらったから、あらかじめ登録しておくよう言われたのかもしれない。
謎が解けたところで、何よりもまず伝えなきゃならない本題を切り出す。

「ネックレス受け取りました」

半ば諦めていた大切な物。
再び潤くんから手渡され、返ってきたことがすごくすごく嬉しい。

「拾って下さってありがとうございます」

本当はチャンミンさんの手にあるのを見た時、直接感謝の言葉を告げたかった。
でもあの時の私は沙緒だったから、あくまで嵐のスタッフという立場で言うしか術が無くて。
こうして今やっと玲緒として伝えられて、胸のつかえが降りた感じ。

『いえ。僕がもっと早く言えば良かったんですが…』

彼は何も悪くないのに申し訳なさそうな声色が聞こえ、慌てて見えない相手に手を振った。

「いいんですいいんです!元はと言えば落としたの気付かなかった僕が悪いし」

『…大事な物、なんですよね?誰かにもらった』

「あ、ウチのメンバーから聞きました?三年前の誕生日プレゼントにもらったんです。気に入ってたから拾ってもらえて助かりました」

潤くんが言ったのかな?
ぼんやりそう考えていたから、続けられたチャンミンさんの言葉が一瞬理解できなかった。

『あの人にも教えてあげて下さい』

…あの人?どの人??

『スタッフさん…ですかね。女の人です。眼鏡をかけた…』

「あ、あぁ!」


私のことか!!


「いやまぁアノ人はいいんです!気にしないで下さいアハハ…」

私の乾いた笑いに返ってきたのは若干棘のある声。

『心配してましたよ。玲緒ヒョンのだとあの人が教えてくれました。僕も前に助けてもらったので』

「あぁー…その節は本当に失礼をば…」

『は?』

「い、いえ沙緒が失礼なこと言ったそうで!」

いかんいかん、うっかり素に戻っちゃってた。
今は玲緒、僕は水樹玲緒なんだ…とコッソリ自己暗示かけてる最中、チャンミンさんの一言で更なるうっかりをやらかしたことに気付く。


『あの人、沙緒さんっていうんですね』


自爆再び。


「……ハイ。ウチの事務所のスタッフデス……」

私のバカーっっ!!ひっそりこっそり影薄い存在でいなきゃならないのに、なに自分から名乗ってんの!?
電話を持ってない方の手で文字通り頭を抱える私。
ダメだこれ以上の会話は更なるボロが出そうで怖い。
早々に切り上げようと、今日こうやって電話したもう一つの用件を持ち出した。

「そ、それでですね。チャンミンさんにお礼がしたいと思いまして」

『そんな別に…』

「美味しい店調べとくんで、良かったら今度ゴハンご馳走させて下さい」

恐縮する彼に構わず提案すると、遠慮気味の声音が一転。

『え、いいんですか?』

わかりやすすぎる明るい返事が返ってきた。
どうやら『ゴハン』という単語に釣られたらしい。素直だなぁと思わず吹き出しそうになったけど、なんとか寸前で堪えることに成功。
咳払いでごまかしてから今後のスケジュールをざっと思い浮かべる。

「来月なら僕わりと空いてますから。チャンミンさんの都合を教えてもらえると」

『わかりました。マネージャーに聞いておきます』

「食べたいもの考えといて下さいね」

和食?洋食?中華?それともあえての韓国料理?
どれをリクエストされても対応できるようにしとかなきゃね。

通話を終えて時計を確認し、この時間なら失礼にあたらないかと判断してメールを一通送った。

『水樹ですお疲れ様です。今度オススメのお店色々教えてもらいたいんですけどお時間いただけますか?』

こんな場合、頼りになるのは何といっても事務所随一のグルメ王・V6の長野くん。
すぐにOKの返信が届き、こちらの準備は順調に進みそう。

ただ東方神起も忙しそうだし、なかなかスケジュール合わないかもなぁ…。
そんな私の心配は杞憂に終わり意外と早くその機会はやって来るのだけれど、それはまた後の話。


 

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