捧げ物

□猫な総司
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――その日


あまりの寝苦しさに総司は目を覚ました。


「うぅ、布団が重い……」


――誰かが布団の上に乗ってるのかな?新手の起こし方??


そう思いつつ、身体を起こそうとすると、変わり果てた自分の姿が総司の目に入ってきた。


「なに……これ?」


ふさふさしたしっぽ。
ぷっくりとした肉球。
ひょんひょんと動くしっぽ。


「……あれ?僕って猫だったっけ??」


あまりの出来事に総司の頭は、一瞬現実逃避しそうになったが、総司はぶんぶんと振った。


「いやいやいや、確かに昨日までは人間だった………はず。」


時間が経つにつれて少し冷静になった総司は、自分の肉球を眺めながら、昨日のことを思い出していた。




 ***





「千鶴ちゃん。今日の星、綺麗でしょ?」


月明かりがないので、顔は見えないが、僕の隣で千鶴ちゃんがほぅと息を吐く気配が伝わってきて僕は自分の頬が弛むのを感じた。


「はい……はじめは新月の晩に、“お月見”って言われてびっくりしましたけど、月の光が無い分、星が綺麗なんですね……誘ってくださって、ありがとうございます。」


確か昨日はそんな他愛もない話をしながら、屯所の縁側で千鶴ちゃんと星を眺めていた。


「ねえ、千鶴ちゃん?さっきから胸の前で手を組んで何してるの?」


「あぁ、これは流れ星が見えたら、すぐ願い事ができるようにと思って……」


「流れ星と願い事って何か関係があるの?」


「知らないんですか?昔から、流れ星を見たら、消えてしまう前に願い事をすると叶うって言われてるんです。」


「ふぅん。女の子ってそういうの好きだよね。それよりさ、君が叶えてもらいたい願い事って、何?」


「そ……それは……内緒です!!沖田さんこそ、何か願い事はないんですか?」


予想外の千鶴ちゃんの切り返しに僕は少し考え込んで口を開いた。


「そうだねー、僕は…」


ちょうどその瞬間、きらりと頭上で何かが光り、千鶴ちゃんのあっと息をのむ気配が伝わってきた。


「…猫になりたいかな。」




 ***





「あれ、半分冗談のつもりだったんだけどなぁ。」


昨日の出来事を思い返しても、こうなった原因は、あれ以外に考えられない。
しかし、原因が分かったことで総司の心に少し余裕が生まれてきた。


「せっかくだから、楽しまないと損だよね!」


猫の顔だとよく分からないが、いつもの総司でいう悪戯っぽい笑みを浮かべながら、総司はとりあえず、まだ慣れない4本足で、部屋中を跳んだり、走ったり、跳ねたりしていた。



この身体にも大分慣れた頃、総司はいつものように自分を起こしに来る千鶴の気配を感じた。


――ちょっとの間、僕だってことは黙ってよう!その方が面白そうだし……


そう思いつつ、座り方がよく分からなかった総司は、とりあえず、招き猫を思い浮べながら、まさに“借りてきた猫”のように大人しく布団の上に座り直した。


「沖田さん、もう皆さん、広間でお待ちです。起きてください。」


いつもなら声をかけると、『うん』や『いやだ』などなど返事が返ってくるのだが、返事が無いことに首を傾げながら、千鶴は障子戸に手を掛けた。


「沖田さん、入りますよ?」


そう言って戸を開けた千鶴の目に入ってきたのは、総司の布団の上にちょこんと座った黒猫だった。


――うわぁ、かわいい……


猫を見た瞬間、総司のことなど頭からすっぽり抜け落ちてしまった千鶴は目の前の黒猫に目を輝かせた。


「ねこちゃん、おいでおいで〜」


総司は出来もしない口笛を吹こうと懸命に口を尖らせて、自分を呼ぶ千鶴に吹き出しそうになるのを必死に堪えて、猫の振りをしながら、しっぽをたて、すりすりと千鶴にすり寄った。
千鶴はその身体を愛おしそうに抱きとると、その艶やかな毛並みを撫ではじめた。


――千鶴ちゃんの手、気持ちいい……もっと撫でて欲しい……


そう思ってすり寄っていくと、千鶴ちゃんの手が首の方へと伸び、あまりの気持ち良さに総司は目をうっとりさせ、自然と喉が鳴る。


――うわぁ、気持ちいい……猫って首触られると、本当に気持ちいいんだ……


しばらくの間、そうやって千鶴の手を十分に堪能すると、総司はにやりと笑い、猫であるのをいいことに千鶴の胸へ頬をすり寄せ、そのまま首筋をペロリと舐める。


「きゃッ…ちょっと、ねこちゃん!」


そう言うと千鶴は総司の前脚の付け根に手を回し自分の顔の前にもってくる。


「ねこちゃん、だめでしょ!」


――そんな弛んだ顔で言われても、説得力ないなぁ〜


そう思いつつ、総司は目の前にある千鶴の唇をペロリと舐め上げた。


「ッッ…―もうッ!」




 ***
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