幻想録
□第2話
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容赦ない殺気。
体格差をものともせず、大きな妖を斬り伏せていく、小柄で、華奢な少年。
きらきらと降り注ぐ月の光。
白銀に煌めく刀。
そして、返り血に濡れながらも、美しく気高い金の瞳。
***
「大丈夫ですか?」
そう言いながら、彼は僕の方を振り返る。
その声にはっと我に返り、僕は彼に向かって頷いた。
辺りを一通り見回すと、いつの間にか、全てが片付いてしまっていた。
そんな僕の様子を見ると、彼は鳶色の瞳を細めて、微かに微笑んだ。
―あれ?さっきは瞳が金色だったような?
ひとつの疑問が頭を掠めると、次から次に疑問が波浪のように押し寄せ、ぼんやりしていた頭が一気に覚醒する。
―今、聞かなくちゃ。
こんな機会はもうないかもしれない…
彼には聞きたいことがたくさんある。
しかし、焦れば焦るほど、言葉にならない……
急に黙り込んでしまった僕を心配したのだろう。
気がつくと、目の前で鳶色の瞳が心配そうに僕を覗き込んでいた。
そのあまりの近さに驚いて、僕は反射的に叫んでしまった。
「うわッッ!?」
心臓がばくばくと激しく波うっている。
「あの…本当に、大丈夫ですか?」
「へっ?あぁ。うん。大丈夫だよ。大丈夫!!」
僕は、動揺を隠しきれず、つい声が裏返ってしまった。
「そうですか。本当に、間に合ってよかったです。では、私はこれで…」
彼は微かに安堵のため息を洩らすと、最後に「失礼します」と頭を下げ、僕に背を向けて、あるき出した。
「あっ、ちょっと!待って!!」
僕は必死に叫んだ…
―聞きたいことがたくさんある。
それらがようやく、言葉となって僕の口から洪水のように溢れ出て来た。
「ねぇ、君は誰??何者なの?どうして僕を助けてくれたの?僕の魂って?贄って何?あの妖が言ってた主って?
ねぇ、ねえってば!!」
彼には僕の声が聞こえているはずだが、僕の問いに答える気はないらしく、ちらっと僕を一瞥すると、そのまま闇へと溶けていった…
残された僕はただ茫然と長い間、彼が消えた方向を見つめ続けていた―
〜第3話へ続く〜