幻想録

□第2話
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脇道へと駆け込んだ瞬間、僕の目の前に現れたのは桜色の長着に白の袴を履き、髪を後ろで高く結った、まだあどけなさの残る少年だった。


僕は一瞬、


――ッッ子ども!?このままじゃ、巻き込んじゃうッ!


そう思ったが、その考えは彼の瞳を見た瞬間、即座に打ち消された。


その少年の瞳は、深く暗い京の闇を照らす一筋の光のように、美しい金色に輝き、僕はその瞳から、目を離すことができなかった…


「そちらの家の陰に隠れていて下さい。あとは私が……」


そう言うや否や、彼は腰に帯びた刀を抜き、迫り来る妖に刃を向けた。


「私は雪村の者です。妖ならば、この姓と刀で分かるでしょう?このまま引いてもらえませんか?」


彼の背後にいる僕からでも、この妖より彼の方が数段上であることが分かる。


―あの妖は引いた方がいい。


と、僕も思ったが、妖からは予想外の言葉が返ってきた。


「この俺様が引くと思うか?ククッ……愚か、愚かよのぅ、小僧。そこの翡翠の魂は、他に類を見ないほどに高尚で清冽。我が主にとっても極上の贄。それをお前のような小僧に独り占めさせるわけがなかろう?」


品定めするような妖の視線が、僕の全身を舐め回す。全身の血がすっと下がっていく…




その一方で、僕の頭は妖の言葉に混乱していた…


―っは?この妖、何を言ってるの?
僕の魂?贄?主…?
でも、何よりも……


僕は、目の前の小柄な影を見つめる。吹き抜ける風が彼の高く結った髪を揺らしていた。


―この少年も僕を狙っているの?
分からない……
僕は誰を信じればいいんだろう?


しかし、ここには頼れそうな人は彼しかいない。
僕は、縋るような眼で彼を見つめていた。


すると、その視線に気づいた彼は、一瞬だけ僕を見やると、妖には聞こえないくらい小さな声でささやいた。


「大丈夫。私を信じて。」


その真摯な瞳に見つめられ、僕は首を縦に振り、彼に肯定の意を示した。


―信じたい……いや、信じよう。


彼はそれに満足したのか、再び妖の方へと向き直ると、烈しく殺気を放った。


さらに、彼の持つ刀に目を向けると、蒼白い焔のようなものを微かに纏いはじめていた。


「もう一度聞きます。どうしても引いていただけないのですね?」


彼は、これが最終警告だと言わんばかりに鋭い殺気を放ちながら、尋ねた。


「くどいッ」


次の時間瞬間、凄まじい妖の妖気が僕と彼に向かって放たれ、僕は思わず身が竦む。


「人の世界には人の世界の秩序が在ります。それを乱す妖は、雪村の者として、放っておくわけにはいきません。」


そう言い終わると、彼は刀を握る手に力を込め巨大な妖に斬りかかっていった。


「図に乗るなよ、小僧ッ」


そう叫ぶと同時に、妖も彼に攻撃をしかけた。




***
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