gift暁

□もしも飛段が饕餮だったら
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すっかり夜も更け、白い月が遠くから冷たい光を落とす人気の無い山道を行く人影が一つ。
賞金稼ぎの角都は逃走している獲物を捕らえるべく、休みを返上して歩を進めていた。順調にいけば明日には追いつくはずだ。
ひたすら黙々と歩き続ける角都は、気配を感じて振り向いた。
眼に人の姿が映り、角都は身構えた。人の形をしていたが、その頭には立派な羊のような角が生えていたからだ。
“魔物の類いか・・・”
殺気立つ角都だったが、魔物の方は全く気にする様子もなく角都の方へ近付いていった。
そしてあっけらかんとした声で話しかけてきたのだ。
「良かった〜人に出会えて!ねえお兄さん、どこ向かってんの?俺迷っちまったみたいで・・・」
はっきり顔が見えるところまで優雅に歩いて迫ってきたその姿は、人を騙す魔物らしく整った顔をしていて、柔らかそうな銀の髪に綺麗なピンク色の瞳をした美青年だった。
平然と話しかけてくるあたり、角が隠しきれていない事には全く気付いてないらしい。
問答無用で斬り捨てるつもりだったが、あまりに間抜けな魔物だったので息抜きに少し付き合ってやるか、と角都は殺気を解き口を開いた。
「迷子か?この山は道が複雑だからな。俺は東にある街に向かうところだが、方向が同じなら連れていってやってもいいぞ」
その言葉に魔物の眼がキラキラと輝いた。
「マジで?俺も東の街に行きたいと思ってたんだ!超助かるぜ!サンキューお兄さん!」
そう叫ぶや魔物は角都にガバッと抱き付いた。
その瞬間、魔物から殺気が漂い、
“本性を現したか・・・愚かな魔物め・・・”
と角都はわざとその魔物の柔らかな銀髪を撫でほくそえんだ。
眼の端で白く尖った歯が月の光に輝き、肩に歯が食い込む感触が走った。
角都の口の端がニヤリとあがり、魔物の眼が驚きに大きく見開かれた。
「くく・・・驚いたか、魔物め。血肉が食らえなくて残念だったなぁ。俺の身体は人間のものではない!」
角都は楽しげに叫び、魔物を力ずくで引き剥がすとそのまま地面に押さえつけた。
角都の身体から無数の触手がうねうねと躍りで、魔物はピンクの眼に驚愕の光を浮かばせ、詰まったような声をあげた。
「な、何でっ・・・お前人間の匂いしてたのにっ・・・・それになんで俺が魔物だって・・・」
「馬鹿な奴だな。まだ気付いてないとは・・・お前、角が出てるぞ。化けるならもっと上手く化けろ。手遅れだがな・・・」
そう言ってせせら笑い、角都は身体と触手で魔物の身体を押さえつけ、眼の前で小さく震えている白い喉を両手で締めた。
整えた顔が苦しげに歪み、ピンクの綺麗な瞳から涙が伝う。
感じからしてまだ幼い魔物なのだろう。
飼い慣らせば使えるペットになるかもしれない(実際、賞金稼ぎの中には魔物を飼い慣らして猟犬のように使っている奴がいる。飼い慣らすのは困難故、数は多く無いが)。
しかし、ペットなど一度も飼ったことは無く、そのつもりも毛頭無い角都は、
「狙った相手が悪かったな」
と呟いて更に首を締め上げた。
その瞬間、首の折れる鈍い音が・・・・
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