◇企画コーナー◇

□お題ったー1:お前とならどこまでも
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「どうして・・・来ねぇんだよぉ・・・角都・・・」
冷たい雨がとめどなく傷付いた身体を濡らしていく。地面に涙と混じり合った雫が落ちて小さな海を形成し、徐々に沈んでいく感覚が飛段の脳内を支配していった。
“死ねたらいいのになぁ・・・角都・・・このままどこまでも沈みてぇよ・・・”


降り注ぐ雨のなか、角都は獲物の首を片手に森の外へと歩を進めていた。長年連れ添った相方を背に向けて。他人の心臓を奪い長い時を生きてきたが、完全な不死では無く、微かではあるが確実に少しずつ衰えていく感覚を払拭する事は出来ず、変わらず若く美しいままの連れの事を思うと辛かった。
どこまでも己を慕ってついてくる連れの前で命がついえる事になれば・・・そうなる前に姿を消した方がまだ救われるかもしれない。角都はそう考え、あえて儀式しながら己を待ち続けているであろう連れに背を向けたのだ。しかし、一歩一歩進む度に、連れと過ごした日々が絶え間なく浮かび・・・


手にしていた2000万両をその場に投げ落とし、角都は踵を返すと一目散に駆け出していった。雨は何時の間にかあがり、空には白い満月が浮かび上がっていた。




気配を感じ取りながら、角都は飛段の元へと辿りついた。雨で儀式の後は綺麗に流れ、ぬかるみの残る地面に力無く横たわる連れを眼にし、角都は息を呑み駆け寄った。抱き起こした身体は死人のように冷たい。
「飛段・・・!大丈夫か?!起きろ、飛段!」
角都は軽く身体を揺さぶり呼びかけた。

顔についた泥を拭ってやると、ふるりと銀色の睫毛が震え、飛段はゆっくり眼をあけた。飛び込んできた待ちわびた顔に、枯れたはずの涙が溢れ、血の気を失った蒼白い唇で、飛段は消え入りそうな声をあげた。
「馬鹿野郎・・・角都てめぇ・・・俺を置き去りにしようと・・・しただろ・・・」
角都は何も答えなかった。
ただ、沈んだ色をその鮮やかなエメラルドの瞳に浮かばせ、迷子の子供のように泣きじゃくる連れの身体を抱き締めた。
「角都・・・ぐだぐだ悩むんじゃねえよ・・・ヤバいんなら俺の心臓を使えっていつも言ってるだろうが・・・」
飛段の言葉に角都は身を硬直させた。

「飛段・・・お前・・・」
言葉を失った角都に、飛段は強い光をたたえた瞳を向けた。
「びびってんじゃねえよ・・・俺がいればお前は最強なんだぜ?簡単に手放してくれてんじゃねえよ!・・・俺とお前、二人でいりゃあ何も怖いもんなんてないだろ?一緒に逃げきろうぜ・・・なぁ、角都?」
頬を撫でる泥に塗れた白い手をそっと握りしめ、角都は眼を細めた。
「そうだな・・・悪かった。どこまでも逃げてやるとしよう・・・死などに俺達は捕まらない・・・」
飛段は眼に涙を浮かべたまま嬉しそうに角都を抱き締めた。交わされた誓いを、白い月が静かに眺めていた。
<END>

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