◇企画コーナー◇

□2012年ハグ祭〜夢〜
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目が覚めた。
身体を起こすと、全身に慣れきってしまった突き刺すような痛みが走る。
薄暗い独房のなかで、薬品で皮膚が焼けただれ骨が見え隠れする腕や足を、飛段は生気のない眼でぼんやりと眺めた。
これは、実験のため三日前に薬品を浴びせられた痕だ。今回はよほどキツいものだったらしく、治りが遅かった。
全身に薄く残っている青痣は、“健康維持のための軽い運動”という名目で手錠と足かせをつけた状態のまま追いかけ回され、意識が無くなるまで殴られ蹴り飛ばされた痕・・・
そして、“楽しい遊び”と称して弄ばれた際に下半身についた汚れはこびりついたままで・・・
“次に身体を洗われるのは確か2日後だったよな”
飛段は深い溜め息をつき、床に倒れ込んだ。




目が覚めた。
全身に痛みを感じ、起き上がって自分の身体を眺めたが、どこにも傷はついていなかった。薄暗い視界に広がっているのは見慣れた部屋だ。
“夢か・・・”
肺の中全部の空気を吐き出すように、長く、大きな溜め息をつく。
そして、起き上がった瞬間、全身に寒気が走り、飛段は息を呑んで身体を震わせた。



飛段は眠る時服を着る習慣がなく、いつも全裸で布団に潜りこんでいるのだが、ここは施設のように温度管理がなされている訳ではない。
しかも季節は12月。
寒さが身に染みる季節だ。いくら寒さに強いとはいえ、全裸では過ごせない温度である。
飛段はカタカタ身体を震わせながら、机の上に置いてあったフリース生地のパジャマを素肌の上に纏い、少し寒さがマシになった、とホッと一息ついた。
見上げた時計は1の数字を指しており、漂う空気は静かで物音一つしない。
しかし、夜中で皆寝静まっているという訳ではなかった。
角都やデイダラ、サソリ、イタチや鬼鮫はドラマの収録で家を空けており、ペインと小南は任務に出かけていた。
そして、普段家にいるはずのゼツもマダラとお忍びで旅行にいくとかで珍しく不在で、つまりこの日は飛段が一人で留守番をする事になったのだ。
「夜には帰ってくるとか言ってたくせに、角都の嘘つき野郎!まだ帰ってきてないじゃねえか!」
薄暗い廊下で声を出して悪態をついた。しかしだだっ広い家には反響すらせず、すぐに静けさが戻る。
手探りで階段をおりてリビングに向かい、電気をつける。
誰もいない広い空間が明るく照らしだされ、飛段はソファーに腰をおろし、膝を抱えるように座った。
一人で黙って座っていると、先ほどみた夢が脳内をよぎり、それは一つの不安を呼び起こした。
“夢・・・昔の嫌な夢・・・だったのか?本当にあれは夢なのか・・・?本当は・・・これが夢なんじゃねえのか・・・?角都もデイダラちゃんもサソリもイタチも・・・皆本当は俺の夢の中の人間で・・・ここも暁の家じゃなくて施設の一部なんじゃないのか?玄関から入ってくるのは汚ねえ白衣を着た奴らで・・・”


そこまで考えて飛段は考えを振り払うように大きな声で叫んだ。
「あ〜!!馬鹿馬鹿しい!そんな訳あるかっての!さみっ!ココアでも飲むか!」



ソファーの上で膝を抱え、毛布にくるまってココアを啜る。甘い香りと温もりが身体中に広がり、不安を溶かしてくれるようだった。
ほっと一息ついたところで、2時を告げる鐘が響き渡った。明日は確か朝から写真撮影の仕事がはいっていたはずだ。
寝ておかないと支障が出るのは眼に見えていたが、眠る気にはなれなかった。
目覚めた瞬間、目の前に広がるのがあの独房だったらと思うと・・・怖かった。
毛布とココアで暖まったはずの身体が震え出し、止まらなくなった。
飛段は膝に顔をうずめ、震える声で呟いた。
「・・・角都の馬鹿野郎・・・早く帰って来いよ・・・」
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