◆暁ファミリー話◆

□その4:無条件の愛を
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表家業の仕事が思いのほか忙しかった角都と飛段にとって、今回の裏家業は約半年振りの任務だった。
しかし、そこは腐っても暁メンバー、全くブランクを感じさせない身のこなしでスマートに仕事をこなしていた。
仕事内容はありきたりな内容で「麻薬売買の裏組織壊滅」。
二人は与えられた情報を頼りに本拠地に乗り込み、そこにいた幹部達を一網打尽にしているところだった。


「フン、たわいもない」
柱の陰から銃を向けてきた敵二人の首を締め上げながら、角都はつまらなそうな声をあげた。
“お前もそうだろ?”
と同調を求めるように相方を見やると、飛段も実につまらなさそうな顔で次々現れる敵を赤く巨大な三連鎌で淡々と床に伏せさせていた。
今回の仕事はもう終わったも同然、まあ準備運動としてみれば丁度良いかと、角都は小さく溜め息をついた。


強いて危惧するとしたら・・・
それは飛段の態度である。


ここ数週間、飛段はSMプレイまがいの凶行を全くせがんで来なかった。
それは角都からすれば喜ばしい兆候なのだが、今日の飛段はかなり控え目に見える。
普段はもっと奇声をあげて無鉄砲に敵に突っ込んでいき、派手に攻撃を食らいながら相手を斬りまくる、そういうめちゃくちゃな闘い方をする奴なのだ。
しかし、それもまた角都からみれば悪くない兆候だった。
少しは己の身体を大事に扱う気になったか、と角都はそれ以上は深く考えず、首謀者がいるであろう地下室へと進んで行ったのだった。



扉の両脇に身を寄せ、無言で頷き合うと、角都はそれを合図に扉の前に出、勢いよく蹴りを入れた。その瞬間、鉄扉がまるで粗末な木製扉のように破壊され宙を舞い、中が露になった。
部屋の中には明らかに上層部の人間と思われる男が三人、身構えていた。
そして、角都と飛段が飛び込んだ瞬間、手にしていた銃を乱射し始めたが、身体を硬化させた角都にはその程度の攻撃は全く無意味である。

呆気なく決着がつき、血まみれで床に倒れて動かなくなった男達を一瞥して、角都はほとんど出番の無かった飛段に眼を移した。
何発か食らって顔や胸や腹から出血が見られたが、当人は平然とした顔で立っていた。
「何だよ、あっけねえなぁ。これで終わりか、角都?」
退屈そうに呟く相方に、
「あぁ。こいつが主犯だ、間違いない。後はコイツの首をもって帰るだけだな。全くもってボロい商売だな」
と返すと、角都は軽々と死体を担ぎ上げてその場から撤退しようと足を踏み出したが、ぐっと袖を掴まれ、制止させられてしまった。
「何だ?」
眉に皺を寄せて振り返った角都に飛段は無表情で答えた。
「時間あるんだろ?儀式してから帰る」
「新たな敵が現れんとも限らん。却下だ!」
角都の言い分はもっともだったが、それでも飛段は全く退こうとはせず、
「少し位いいじゃねえか!もう何ヵ月もやってねえんだぞ!ジャシン様がお怒りなんだ!」
と喚き立てる。
角都からすればジャシン様のご機嫌など知った事ではない。
当然受け入れるはずはなく、一言で一蹴して手を振り払うと先に進みだした。
「俺の知った事か!行くぞ!」
「あっ!コラ待てよ角都!マジでやべぇんだぞ!これ以上ジャシン様は待ってくれねえんだって!ここで贄を捧げなきゃ次はいつになるか分からねえだろうが!って聞いてんのかコラァ!」
背後から喚き立てる声を無視し歩を進めれば、飛段の駆け足で後を追う足音が建物に響き、角都は“はじめから大人しくついてくればいいものを”とばかりにフンと鼻を鳴らし、更に歩調を早めた。

だが、背後に飛段の気配がしたのもつかの間、飛段はその場で立ち止まり、また距離が離れた。
「待てって言ってんだろ・・・くそっ・・・」
という呟きが聞こえて来た矢先・・・
“ドサッ!という物音がし、角都はようやく後ろを振り向いた。
眼に映ったのは床に倒れ込んでいる飛段の姿で、角都は小さくうなり声をあげた。
飛段のやることは実に子供じみていて、今回も角都にはダダをこねているように見えたのだ。
「何をやってる!俺にそのテは通用せんぞ!早く起きろっ・・・」
死体を放り投げ、床と仲良くなっている飛段の横に膝をつき叱責の声をあげる。
だが、ダダをこねているだけのはずの相方には明らかに意識がなかった。
「飛段・・・?おい、飛段!飛段!」
名を呼びながら身体を揺すり、仰向けにさせたところで初めて異変に気づく。

普段なら既に塞がっているはずの傷は開いたまま。
それを主張するように血が一筋、口から流れ・・・

角都は眉間に深い皺を寄せた。
「これは・・・まさか・・・」
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