◆暁ファミリー話◆

□その6:BEST ONE
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「違う・・・トビと全然違う。身体つきも、声も、仕草も・・・」
「あぁ・・・俺も違う。背丈は変わらないが抱き心地は全然違うな。お前の方が柔らかい。声も違う。お前の方が緩やかだ。香りも違う。あいつは柑橘系の匂いだが、お前は花の香りがする。・・・俺達の感じている違和感を、トビも感じるはずだ。もしかすると飛段も感じるかもしれん・・・ああ見えて野性の勘は結構働く奴だからな・・・この違和感を抱いたまま、事に及びたいとお前は思うか?俺は思わん・・・」
その言葉に、ゼツは安堵の表情で角都を見下ろした。
「そんなものなの?・・・人間は皆そう思うの?」
「そうだな・・・人間なんて単純な生き物だ・・・強く思う気持ちがあれば浮気なんて絶対にせん。自信を持て。お前は人間では無いが・・・充分魅力的だ・・・」
角都は諭すように優しい口調で語りかけ、ゆっくり頭から背中を撫でた。
ゼツはごしごしと涙を拭い、ようやく笑みを浮かべた。
「角都もかっこいいよ・・・トビよりも」
「ふっ・・・それでも俺よりアイツの方がいいんだろう?」
「・・・うん」
角都の問いかけにゼツは小さく頷き、大きな溜め息をついた。
「なんか・・・ホッとしたら眠くなってきちゃった。帰らなくちゃ・・・」
その言葉に角都はゆっくり起き上がり、ゼツが離れるのを待った。
が・・・ゼツが動く気配は全くなく、代わりに規則正しい寝息が聞こえ出し、角都はがっくりと肩を落とした。
「お前、ベッドで寝ても疲れはとれんだろうに・・・勝手に人の布団で眠りこけるところも飛段と同じか、全く・・・」
数秒、ゼツの穏やかな寝顔を眺め、角都はゼツをゆっくりベッドに寝かせ直すと窓に歩み寄り、白く輝く月を眺めながらポツリと呟いた。
「今頃お前も同じように感じてるだろう、トビ・・・」




三日後、トビと飛段は何事もなかったような顔をして帰還した。
何事も無かったかときいたところで、何か起こっていればトビが記憶を消去していることは明白で、角都は敢えて何も聞かなかった。
しかし。
出迎えた角都を飛段は真っ向からみて叫んだのだ。
「おいコラ角都っ!てめえ俺を他の奴と任務に行かせやがって!!俺の身が心配じゃねえのかよぉ!!」
あまりの衝撃に言葉を失った角都の横にゼツが走り寄り、丸い眼を飛段に向けた。
「おかえり、飛段。どうしたの帰ってくるなり。角都と一緒に任務に出かけてたじゃない?」
「俺は騙される訳ないだろうが!そりゃあ始めは訳分かんねえ術かけられてたみたいだけどっ・・・」
角都とゼツは二人で眼を丸くしながら、一斉にトビへ眼を向けた。トビはきまりが悪そうな顔で、
「何も聞くな・・・とりあえず任務は成功、査定も完了だ・・・じゃあな」
と言い捨てると早足で自室へと戻ってしまい、ゼツは慌てて後を追って行った。
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