◆暁ファミリー話◆

□その6:BEST ONE
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「知ってるもん・・・可愛い顔して色っぽく甘えるの・・・僕より何倍も可愛い顔して誘うの・・・僕はいつも見てるよ・・・いつ角都が根負けするかって楽しみにしながら・・・トビだってもしかしたら・・・」
そこまで言って堪えきれずボロボロと泣き出したゼツに、角都は確信のこもった眼を向けた。
「大丈夫だ。確かにあの馬鹿が多少なり可愛い事は認めるが、お前だって可愛いぞ。あいつより何倍も素直で物分かりがいいしな。それに・・・」
角都は囁くようにゼツの耳元へ口を寄せた。
「知ってるぞ・・・アイツが夜な夜なお前を自室に連れ込んで如何わしい行為をしている事を・・・」
ビクリとゼツの肩が跳ねた。誰にも関係を知られていないと思っていたゼツは、あまりの驚きに眼を見開き、思わず手にしていた湯呑みを取り落としてしまった。
バシャッ、という音の後に、ゼツの小さな悲鳴が部屋に響く。
「なんでその事っ・・・!!熱っ・・・」
剥き出しの内腿に熱の残るお茶が派手にこぼれ、小さな池を作っていた。だがここは他人様のベッドの上、脚を開けば派手に濡らしてしまう。ゼツは助けを求めるように角都を見上げた。
角都は呆れ顔で手早くサイドテーブルの引き出しからタオルを取り出し、ゼツの脚を拭くと部屋に置いてある簡易冷蔵庫から氷嚢を取り出し、ばさりとその上に置いた。
あまりの手際の良さに、ぽかんと口を開けているゼツに、角都は渋い顔を向けた。
「飛段と同じ事をするな、俺の中のお前の評価が下がるぞ」
「え?」
「飛段もよく物をこぼす。だからタオルや氷嚢は常備品という訳だ」
ゼツはパチパチと瞬きした後、はたと我に返ったように焦った顔で角都に迫った。
「さっきの話っ・・・!なんで角都が知ってるの?!」
「誰にきいた訳でもないが、お前達2人をみていれば解る。年寄の観察力を舐めるな」
ゼツは言葉を失い、放心状態でその場に固まってしまった。角都は畳み掛けるように言葉を続けた。
「正直に言って、俺だって不安が無い訳ではない。だが、アイツがお前に酷く執着しているのもまた事実なのだ。アイツがここまで他人に執着するのは、俺の知る限り初めてだ。何度も事に及んでいるなど今までのアイツからは考えられん・・・俺は奴の執着心を信じようと思う。お前は信じられないか?誰よりも愛されているとは思わないのか?」
角都の問いかけにゼツはしゅんと俯いた。
“自分に自信が持てないのか?それとも・・・アイツの事が信じきれないのか・・・まあ、基本的に非情な男だから無理もないが・・・”
角都は小さく溜め息をつき、暫く黙り込んだ。
数分後。角都は何かを思いついたように立ち上がると、おもむろにゼツの脚に置いた氷嚢を取り除けた。
突然目の前に立った角都に、ゼツは何事かと問いかけるような眼で見上げた。
しかし角都は無言でゼツを見下ろすと身をかがめ、その無防備な唇を塞ぐとそのままベッドに押し倒した。
「ふぅっ・・・!」
ゼツは脚をバタバタさせ、必死に角都の胸を押しのけようと腕に力を込めたが、体格に差があるのは歴然で、ぴくりとも動かない。
息をする間を与えられず、意識が遠のきそうになったところで塞がれた口を解放され、ゼツは荒く呼吸しながら、怯えた眼を角都に向けた。
「角都っ・・・どうしてっ・・・!嫌っ!離してお願いっ!やめてっ!嫌だっ・・・うぅ・・・」
ボロボロ涙を零しながら必死に嘆願するゼツに、角都は少々やり過ぎたかと反省し、なるべく優しく声をかけた。
「落ち着け。どうこうする気はない」
「なら・・・なんでこんな事っ・・・」
「・・・何を感じた?」
「え・・・?」
ゼツはピタリと抵抗をやめ、まじまじと角都の深い眼を見つめた。

突然の事に驚きはしたものの、角都の飛段への執着心の強さはゼツでなくても皆が知っている事だ。そして角都は、ボスであるトビの所有物である自分に手を出すような浅はかな人間でもない。
ゼツは一つ大きな深呼吸をして言葉の意味を考えた。


何を感じた・・・?


角都は人間の中では見た目の良い部類に入る。背もトビより高いし、声も耳元で囁かれれば溶けてしまいそうなくらい心地よい。キスもトビより上手かった。女なら誰しも抱かれたいと思うだろう。飛段が占領しているのが勿体無い位だ。
だが・・・

「違う」
ゼツはポツリと呟いた。
角都はやんわりと微笑み、ゼツの身体を抱き上げるとそのまま仰向けに寝転んだ。
「これはどうだ?」
角都に抱きしめられるがまま、仕事用の黒いボディスーツに覆われたままの胸に顔を埋めれば、規則正しく鼓動する五つの心臓の音が全身に響いた。
トビより大きくて逞しい胸、力強い腕。


“あぁ・・・飛段はいつもこれを感じてるんだな・・・すごく落ち着く・・・でも・・・”
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