gift暁

□もしも飛段が饕餮だったら
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響くはずだったのだが、聞こえてきたのはぐうぅぅぅぅ〜という地から沸き上がるような音で、拍子抜けした角都は思わず手を緩め、呆れた顔で魔物を見下ろした。
魔物は咳き込みながら酸素を求めてハァハァと荒い息をついている。
落ち着くのを待って、角都はため息混じりにぼやいた。
「貴様、どこまでも呆れた奴だな。殺されかけてる最中に腹の虫を鳴らす馬鹿がどこにいる・・・」
馬鹿、という言葉に魔物はふてくされたような顔をし、涙で濡れた眼を角都に突き付けながら口を尖らせた。
「だって・・・もう1週間位何も食って無いから・・・本当に道に迷ってて・・・街で食事しようと思ってたけど、お前の香りかいだら我慢出来なくなって・・・うぅ・・・なぁ頼むから見逃してくれよ・・・」
なるほど、と角都はひとり納得した。どうやら腹が減りすぎて、変化する力も無かったらしい。
ポロポロと涙をこぼしながら羊のような角を震わせている姿は、いたいけな子羊、と形容したいところだが、コイツは間違いなく饕餮だ。
凶暴すぎて人が飼い慣らす事など出来ないと謳われている・・・
角都は薄い笑みを浮かべた。コイツを飼い慣らせば仕事が更にやりやすくなり、名も売れるに違いない。
ペットなど飼ったことは無いので自信はあまり無かったが、取り組む価値はあるな、と考えの変わった角都は小さく頷いて触手をしまい、魔物からゆっくり離れた。

解放された魔物は嬉しそうに笑い、起き上がろうと立ち上がり・・・バタリとその場に倒れ込んだ。
もう立ち上がる力も残っていないようだ。
起き上がろうとしては倒れを繰り返し、魔物は悲しそうな顔で丸まり、溜め息をついて動きを止めた。
「どうやら動く力も残っていないようだな」
角都の言葉に魔物はチラリと上目遣いで角都を見上げる。どこかねだるような眼で見てくる魔物にいとおしさを感じ、角都は優しい笑みを向けた。
そしておもむろに己の服をたくしあげて胸に手をやると、鼓動する塊をズルリと取りだし、魔物の前に突きだした。
「お前が俺のペットになるというのなら、心臓を1つくれてやる。どうだ?」
魔物の眼が驚きと喜びの混じった光で輝いた。
「何で・・・お前心臓取ってんのに死なねえの・・・?」
「煩い。ペットになるなら追々話してやる。さあ、どうするんだ?」
「分かった、大人しく飼われてやるから・・・それ食わせて・・・」
叫ぶ元気も残っていない魔物は力無く笑い、角都は
“落とすなよ”
と声をかけながらゆっくり心臓を手渡した。
魔物にしては素直な奴のようだ。恐らく言葉通りペットになるだろう。
幸せそうな顔で心臓にかじりついている魔物に、なるべく優しく声をかけた。
「美味いか?」
「ん・・・暖かくて超うめぇ・・・・ありがと・・・ええと〜・・・」
「角都だ。主人の名前だ。ちゃんと覚えろよ。お前の名は?」
「飛段。へへ・・・よろしくなぁ、角都ぅ」
口のまわりを真っ赤に染めて嬉しそうに笑う魔物に、角都は可愛い奴だと優しく頭を撫でてやったのだった。
<END>
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