短編
□Trick and treat
2ページ/6ページ
霧がかかりだした夕暮れ時。
水鏡は森の外を歩いていると、中から歌声が聞こえた。
(なんだ?)
水鏡は霧の中でその妖艶に響く声に連れられるように森の中へと入ってしまった
。
入ってみると歌は止まり、その声が喋りかけてきた。
「おいでおいで。もっと森の奥深くまで」
声変わりの終わった男性の声はそう言う。
「早く早く。急ぎ足で出来るだけ近くに」
女性にしては落ち着いたテノール声はそう言う。
(…誰だ?聞き覚えはあるのに思い出せない…。)
『アソビを始めよう』
水鏡はその言葉で目の輝きを失った。
(ナニモ…考エラレナイ。行コウ。行カナキャ。)
水鏡は歩き出した。
操り人形のように。
ある一ヶ所に向かって。