嘘月(短編集)

□1%の現実と約束
1ページ/1ページ






死んでも逢いたいと願った人がいました。


今日、総隊長に呼び出された。何で五席の私が総隊長直々に呼び出さたのか内心何も悪い事などしていないのに、どきどきだった。だが、総隊長は重たい面持ちで口を開き私は、絶望した。四十六室からの理不尽な命令が私に下ったのだ。隊長三人が裏切り上位席官達は数多く負傷して尸魂界は混乱状態だが世界は、そんな事お構いなしに回っていて、だから当たり前に任務も今まで通りこなさなければならない。本来隊長クラスの危険任務も誰かが、しなければならない。それが偶々、私に下っただけ。四十六室から名誉ある命令だ。喜べばいい、だが嬉しくなかった。私がその任務を成功出来る可能性なんて1%もありはしない。つまり、死ぬって事だ。


「この景色も見れなくなるのか……」


現在夕刻。赤く染まった尸魂界は、絶景だ。隊舎の屋根に登って景色を眺めて、そう口を開いた。
夕刻……今日の、一時間前に冬獅郎と会う約束をしていた。だが、行かなかった。行く気分になれなかった。今は、1人で考えたかった。何を?命令をたかが五席の私が拒否出来るわけもないのに。


「何やってんだ、そんな所で」


聞き慣れた声に屋根上から下を覗けば小さな彼氏、冬獅郎がいた。約束の場所に来ない私を探しに来たのだろう。約束をすっぽかしこんな所で呑気に景色を眺めている私に少し怒っているのが遠目からでもわかった。


「別に、なんとなく立ってるだけ」


素っ気なく返せば下にいた冬獅郎の姿は消え瞬歩で屋根上に移動して来た。顔を横に向ければ腕を組んでいる冬獅郎の姿があった。


「ああ?てめえ、人の約束忘れてここにずっといたのか?」
「忘れてない」
「だったら何で来ねえんだよ」
「ごめん……」


会話がまるで成り立ったいない私達。答えになってねえよと冬獅郎は零す。だって言いたくない。冬獅郎会ったら泣いてしまいそうだったからなんて私は言えないよ。


「なあ、噂でさっき聞いたんだが、お前に危険任務が下ったって聞いたんだが本当なのか?」
「……うん、本当だよ。」


言いたくはなかったが、いつかは知る事だ。それにしても情報が早いな。私は誰にも話してないのに尸魂界の情報の速さは、怖い物がある。それをしみじみ実感した。


「何で、何で俺にすぐ言わねえんだ!そんな大事な事!」
「今日命令聞いたの。それに、この事私から言ったのは冬獅郎が一番だよ」
「っ……四十六室からのか?」
「うん」


怒鳴る冬獅郎。私は、俯きながら冬獅郎に泣きそうで震えてしまいそうな声を必死に強がって平然そうな声を出す。冬獅郎は私の前から消えた。姿は、もう目の前にはなかった。


「…………。」


呆れたんだろう。怒ってどっか行ってしまったに違いない。呆れて当然だ。約束破るし、我が儘だし、素直じゃないこんな彼女捨てられて当然だ。自業自得ってやつだ。
夕日が夜に喰われかけている。暗くなり始めた尸魂界を眺めたが前が霞んで余り見えなかった。泣きそうに、いや、泣いていた。しゃがみこんで涙を拭う。顔を手で覆って涙を止めようと必死になるが止まらない。溢れ出てくる。


「……っ……っぐわあ!」


何かが後ろから当たって振り返えれば、見慣れた銀髪が目に入った。しゃがみこむ私を抱き締めてくれた。顔は、見えなかった。冬獅郎の顔は私の肩に埋めてあったから。


「もっと色気のある声出せよな」
「ごめんね」
「何で謝んだよ」
「……ごめんね」


籠もった声。まだ冬獅郎の顔は、私の肩に埋まったまま。私は、まだ涙が止まらない。止まりそうにない。冬獅郎は顔を上げ私を冬獅郎と向き合うように体を動かした。


「もう泣くな」


コクンと頷くけれど止まりそうにない。冬獅郎の指が私の涙を拭う。戻って来てくれて嬉しい。素直に言えないけどありがとう。俯いて止まらない涙を零す私の手をとって何かはめられた。


「手、見ろ」


そう言われて顔を上げて自分の手を見たら薬指に何やらシルバーリングはまっている。ぼやける目でそれを確認し冬獅郎を見た。何だか冬獅郎の顔が赤い。


「……何?これ」
「指輪だ。現世では男が好きな女にあげるらしい」


そう言ってキスされた。また、涙が出た。嬉しくて、嬉し過ぎて


「任務から帰って来たら、すぐにでも結婚しよう。……だから、必ず戻って来い」
「…っん、…っうん」


嗚咽に紛れながら必死に返事をし頷いた。嬉しくて嬉しくて涙が止まらない。守れない約束をしたあの日は、最悪で最高の日だった。



 * * *



「っ、っ、んっ……」


体はボロボロだった。
血まみれになった体は、冷たい。苦しい、息が上手く出来ない。刀を握れない。腕が片方なくなっていた。指輪をはめた腕が刀を握りしめて体から、離れた所に落ちている。
ボロボロの体で地を這いながら片方しかない腕で必死に進んで手を伸ばす。刀なんてどうでもいい。冬獅郎との約束の指輪に、必死に手を伸ばした



「……とう しろう…ご め  」


グチャ、始めて己の体が潰れる音を聞いた。


(守れない約束をした。)(指輪は、彼女の伸ばした手に届きそうで届かなかった。)(約束を守ろうと必死だった事を赤く染まったシルバーリングが物語っていた。)




Thanks !
title Aコース
remake 2007???? UP20080824
守れない約束→1%の現実と約束




[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ