嘘月(短編集)

□三百と六十五日、側にいて
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「せやから無理や言うとるやろ!」
「してもないうちから無理言うな、ハゲ!」
「ハゲてん奴にハゲ言うなボケ!」


私を一言で表せば『我が儘女』だと思う。よくホンマ我が儘やなって言われるし最初は自覚なんか無かってんけど、最近あんまりにも言われるもんやから、そうかもしれんと思うねん。だけどなあ、我が儘言うけど私は、ただ自分に正直に生きとるだけや(それが我が儘だろう)、それはアカン事なんやろか?人生一度きりや楽しまな損やんか


「真子」
「何や」


名前を呼べば、気だるそうに返事を返す。お互い同じ関西弁で、きっと死ぬ前からウチらは近くにおったんちゃうかなって思ってまう。そうであったらええ、死ぬ前の記憶は一切ないけど、だからそう思える。だってウチらも誰も生前の事なんて何一つ覚えとらんけど、ウチはそれで良かったと思っとる。だってな、生前の事なんてもし覚えとっても面倒やで、きっと。今の生活に満足出来るわけない。人間みたいに自由気ままに生きとったなんて今じゃ考えられんもん。


「ウチらは、幸せなんやろか?」
「さぁな、わからん」
「ウチは幸せやで。後悔してない」
「なら、聞くなや」


真っ直ぐ前を見る真子にウチは、その警戒しとる真子の横顔をチラリと覗き見る。阿呆、真子と心でボヤキながら。だってコイツまともにウチの話聞いとらん。はあと真子の横で大きな溜め息をこぼせば、「幸せ逃げんぞ」と言われたから吐き出した分の幸せを一杯一杯吸い込んだ。


「スゥ、スゥ、スゥ、、げほっげほッオェ」
「阿呆」
「…うっさいわ」


逃げた幸せを取り返そうと幸せを飲み込んだら蒸せたウチに真子は冷ややかな目で上から見下ろし見つつ言った。もともと真子が幸せ逃げるとか言うからやないか酷い奴や。


「さっきの質問の続きやけど、ウチは幸せやって言うたやろ?」
「あぁ」
「最初の質問は、ウチらは、幸せなんやろか、や」


真子は遠くを見よる。ウチがおる事なんか忘れとるみたいに。ウチは幸せやで。死神辞めた事も尸魂界を出た事も後悔なんかしとらん。もともとウチは死神の掟やら自分の慕っとらん隊長らに就くのが気に喰わんかったし、今の仲間の方が断然好きやし慕っとる。好きな事一杯出来るし真子がおるしウチにとっては真子がおる事で何でも良く思えるわ。やけど、真子は、ちゃうやろ?


「知らん」
「はいはい、ウチの質問なんかどうでもええもんなぁ。」


けっと不細工な顔すれば真子は、ウチの頭の上に手を置いた。知らんはないやろ、分からんならまだしもやなあと思いながら真子の横でまたチラリと覗き見れば、……なあ、何そんな顔しとんねん。真子らしない、ホンマ真子らしなわ。


「いい加減しいや!真子!何そんな情けない顔しとんねん!いつもみたいにヘラヘラしとけ!」
「いつもヘラヘラなんかしとらんやんけ!」
「しとるわ!ウチが言うんやから間違いないわ、ボケ!あんた後悔しとんやろ!どうせウチらまで巻き込んでもたとか、そういう、くだらん事考えとんちゃうんけ!阿呆真子!いっぺん死んで頭作り直してもろてこい!」
「もういっぺん死んどるわ!」


屁理屈言うな!って言ってはあはあと肩で大きく息をした。いつの間にか熱くなってもて立ち上がっとった。
何で感情が高ぶると涙が出てくんねん。泣きたいわけやないのに、なんでやねん。何で溢れてくんねん。


「…何泣いとんねん、阿呆」
「うっさいわ…」


腕で、手で、甲で涙を拭うけど間に合わん。どんどん自分の意志に反して溢れてくる涙が憎い。泣きたいわけやない、ただ真子に元気だして欲しかっただけやった。やけど上手くいかんかった。怒鳴りつけるは、勝手に泣くわ、最悪やわ。人生上手くいかんなあ、


「泣くなや」


真子がまたウチの頭に手を置いた。
怒鳴りつけとる時に振り払ってもたのに、ごめんな。真子は優しい、ウチは素直になれん我が儘女。真子もきっと呆れとるに違いないわ


「…真子が阿呆やからや。ウチは 、例え逆らえんかった 、運命やっとしてもウチはウチで人生を決めたつもりや。自分で好き好んでこの道歩いとんや」
「…そうか」
「そうや」


ウチは死神辞めた事後悔してない。それは本気で命をかけれるぐらい本当の話や。ウチは真子、あんたがおってくれたらええねん。ずっとずっと、出来るだけ長く、出来るだけ濃く一緒におりたい。いつか真子、あんたがそんな顔せんですむ世界になったらウチは自分に正直になってあんたに告白する。大好きやって言うから待っときや。


頭を撫でてくる真子にニィと微笑めば、「なんやねん、気色悪い」「乙女の微笑みを気色悪いやないて失礼な事言うな」「微笑みなんてええもんちゃうやろが、さっきの」



(時は自分達が意識しとらんくても、着々と流れていきよる。)(もうすぐ、何もかもが動き出し何もかもが終わる)(何もかもが終わった時ウチは、真子あんたの横にいてますか?)

thanks !
title 7(セブン)
UP 20080811
 

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