story

□アッチの世界
2ページ/4ページ

最近、日課のように訪れる教会
春になってから、毎日のように妖精の鍵を探しにきてしまう

「…ないか」

俺は、探すのを中断して指定席となっている場所によじ登り、空を見上げた

何の匂いだろう?優しい匂い
春の風に溶けて、俺の髪をさらっていく
そう あの日もこんな感じだった
目を閉じて風に身体を預けそうになるなか聞こえてきた

草を掻き分けながらサリッサリッゆっくり歩いてくる音。
しばらくして、教会の前で立ち止まる気配

「誰だろ?ここに来るなんて俺かコウぐらいなの……に」


時が止まった気がした
上から見下ろしてみれば、薄い色素の髪の少女

遠目からでも分かる肌の白さとクルンとした長い睫毛

「神様ありがとう」

そっと呟いて少女の元に降り立った

「なにしてるの?」


ビックリしたのか早々に立ち去ろうとする彼女の腕を掴んだ
バランスを崩す彼女を支える腕が震える


俺は大好きだった
プルンとした桜色の唇
おまじないだと言って何度もキスをしたガキの頃

オマエは忘れたの?

磁石のように、俺の唇が少女のそれに重なろうとすると少女は、真っ赤な顔して慌てた


「誰かと間違えてない?」


「たぶん合ってる」

そういうと彼女は少し困惑した表情になった





あの頃と全く変わらない
俺は、さっき時が止まった気がしたのは、あの頃の恋心が再び色づいた瞬間だったんだ


迷子の彼女を家に送り届けて、踵を返す


「送ってくれてありがとう」

って背中に聞こえてきて思わず振り返ると、ホントに変わんない笑顔で手を降っていた


ふふふーん♪
鼻歌混じりに帰宅した俺を見て怪訝そうに見る兄

「なんかあったのか?」

「コウ、あの子が帰ってきたんだ」

「間違いねぇのか?」

「うん。俺、家まで送ってきたから」

細い目が更に細くなる
あー、きっとコウも好きになっちゃう
あの子見たら

だって、時が止まるくらいイイ女だったんだ



「俺、景気付けにホットケーキ作る」
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ