story

□アッチの世界
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結局、熱で丸2日学校を休んでしまったけど、なんとか挽回して体育祭に挑んでいる

「いやー、バンビ!それ可愛い。」

「そう?似合ってる?」

カレンは、あたしの頭にくっついた耳を触りながら、あたしごと抱きしめた

「っていうか、これはタヌキ?犬?なに?」

大迫クラスの手芸部が、あたしのために作ってくれたバンビ耳
そう、例のマスコットガール用の装飾物
各クラスが、それぞれ何かを身につけている
あたしみたいに耳だとか、エプロンだとかアフロカツラだとか…

「ハズレ、これはバンビ耳でした」

「ええー、どう見てもタヌキにしか見えない」

「シッポもあるの」

そう言って、あたしはカレンに三角形したフサフサのシッポを見せた

「うっ かわいーい」

調子に乗って、シッポのついたケツをフリフリしていると放送委員の声がスピーカーから響いた

「各クラス、整列してください。」


カレンとあたしは、お互いに「じゃあね」と軽く手をあげて、それぞれの列に並ぶ

隣のクラスを見ると、ルカと目が合った

「美斗なにそれ?犬?」

ニコニコしながらルカは、あたしに近づくとサワサワと、バンビ耳に触った

「ば・ん・び!なの。どう?可愛い?ブヒ!」

そう言って、ニンマリ笑ってルカを見上げる

「バンビって、ブヒ!って鳴くの?(笑)」

「…たぶん」

「フッ かわいい。食べていい?」

ルカは、目を細めて悪態づいた表情をしながら、口をあんぐり開けて、頭に乗ってる耳にかぶりつく真似をした

「ふふ、おいしくないよ?お腹壊しちゃうよ?(笑)」

「じゃ、チューでいい」

「もう!」

そんなやり取りをしているうちに、いつの間にか開会式は終盤になっていて選手宣誓に、紺野先輩の名前が呼ばれた

タマちゃんは、天之橋理事長の前に右腕を挙げると力強く発声する

「宣誓!我々、選手一同は………正々堂々と体育祭を楽しむ事を誓います」


体育祭の流れは、どこも同じで開会式が済むと生徒は、ダラダラと指定の場所に歩いていく

「よ、柚木。それ、似合ってるじゃん」

声を掛けてきたのは、不二山だった

「嵐くん、なんか今日は、気合い入ってるね」

「タダで毎日、スペシャルはばたきランチ食えるんだ。気合い入れるだろ」

「頼もしい!頑張って!応援してるから」

あたしは、心から願う。
我が大迫クラスの勝利を!

『各クラスのマスコットは、表彰台の前に集まってください』

あ、マスコットってあたしか

「なんだろ?」

思わず、隣にいた嵐くんを見た。

「わかんねぇ。俺も受験組だから、はば学の体育祭は初めてだ」

「そうなの?とりあえず、行ってみよ」

あたしは、すでに表彰台に集まってるマスコット達を見る
その中に、なぜか設楽先輩の姿を発見
よく見ると、マスコットは女子だけじゃなくて男子もいるらしい
まだ、設楽先輩と絡んでなかったあたしは少しテンションが上がる
猫っ毛?整った顔に育ちの良さそうな雰囲気…ちょっと、機嫌悪そう

「なんで俺がマスコットなんだよ」

「休んだお前が悪い。シタラーズ達が、お前をマスコットにしろってうるさかったんだよ」

「まったく…冗談じゃない!しかも、なんで王冠なんだ」

「わりと似合ってると思うよ。それに、よく出来てる」

体育祭の運営も任されてるのか紺野先輩が、設楽先輩をなだめている
これは、チャンス!

「紺野先輩!」

あたしの呼び掛けに、くるりと振り返った先輩は、あたしを見ると爽やかに微笑んだ

「柚木さんも、マスコットなんだね。そうじゃないかって思ってたけど」

「ん?」

「聞いてないの?マスコットは、体育祭が終わった後が重要なんだよ?どのクラスのマスコットが評判良かったか投票されるんだ」

「そんなこと聞いてないです」

「で、投票数も点数に加算されて優勝クラスが決定する」

なんか、プレッシャー
なにがゴール地点で待ってればいい。だ!
肝心な事、省いたね…

「なんだ、紺野。例の彼女か?」

ニヤリと口角をあげて、設楽先輩は紺野先輩を見る

「え、ああ、こちら1年の柚木美斗さん。で…この人は…」

そう言って、紺野先輩は設楽先輩に指先を向けると、

「2年の設楽聖司だ」

王冠を頭に乗っけたセイちゃんは、さながら王子様みたいで意外と似合ってる
体操着でなければ、よかったのに…

「ん?例のって?」

あたし、何かしましたか?と紺野先輩を見上げると途端に顔を赤らめた

「な、なんでもないよ。気にしないで」

慌てふためく紺野先輩の横で、設楽先輩が鼻で笑う

「それにしても、タヌキ意外なかったのか?」

セイちゃんが、あたしのバンビ耳に苦笑いしている

「バンビなんですけど…」

「鹿も狸も同じだろ」

セイちゃんよ、同じ山の獣だろうけど鹿と狸は生物学的にも見た目も違うよ…

「別に、似合わないとは言っていない」

「え?」

あたしが、シュンとしたように見えたのだろうか?セイちゃんは、フォロー入れてきた。

「ぶっ(笑)ありがとうございます。セイ、じゃなくて設楽先輩もソレ、似合ってます」

王冠に指差していうとセイちゃんは「ウルサイよ」と一言だけ残して、立ち去ってしまった

「おい、設楽!どこに行くんだ?写真撮るって言っただろ」

「はぁ?」

「投票用の写真だよ」

「テキトーに撮れよ」

「そうはいかねぇーの!お前の写真は、大事な部費なの!」

「そんな事、知るか」

そうだよね、写真部にしてみたら今日の王冠付きセイちゃんは、高く売れるだろうね

「あ、柚木さん!写真撮らして。可愛く撮ってあげる」

「えっ?写真?あたしの?」

見れば、写真部と腕章を着けた女子達

「そう。柚木さんの写真ほしいって人多いのよ」

「あたしもー、クラスの男子に頼まれたんだ。」

そっか!
そういえば、あたし今、パネエ美女だった

「あたしで良ければ…」

「あーもう!カレン様が柚木さんにメロメロになっちゃうの分かる気がする」

「なんていうか…守ってあげたいというか、ほっとけないというか」

そう言いながら、高そうなカメラを構えるとカシャカシャと何枚か撮っていく

「よし!いい絵もらった。高く売れるわよー。じゃね!ありがとー」


写真を撮られてる間に、マスコットについて、紺野先輩の説明が始まっていた
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