story

□アッチの世界
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カレンダーは、6月に突入していた。
今日は、午後には雨になると今、テレビでやっているけど…ほんとかね?
すげー、いい天気。

鏡の前で、身支度を整える夏服の白が眩しい

「髪の毛、うっとおしいなぁ…切っちゃう?」

そう独り言を言いながら、少し高い位置で、髪を結わえた
んで、この前買ったシュシュをプラスして…

「ふふ、完璧。」


設定装置を作ってくれたじーさんに感謝


コッチに来て、3ヵ月
最近、同じ夢ばかりみる。幼いあたしとルカとコウちゃん
鬼ごっこをしている。
1人遠くに逃げたあたし。ルカとコウちゃんの姿が見えなくなる
寂しくなって、2人がいるであろう場所に戻るけど、そこには2人の姿はなくて

「ルカちゃん?コウちゃん?どこ?」

泣きながら名前を呼ぶ

そうすると
「ここにいるよ!」
と言って、走ってくる幼いルカとコウちゃん

2人の姿を見て、泣き顔から笑顔になったあたしを見て、ルカとコウちゃんも笑う
という、そんな夢だ

まるで、洗脳されてるみたい
あたしは、最初からコッチの世界の住人で、戻る世界なんてないと…




再度、鏡でチェック

「よしっ オッケ」

3人分の弁当を抱え、傘も忘れずに出発



玄関を出ると、少し湿り気を含んだ空気の匂い
昔遊びにいった祖母の家のトマト畑の匂いに似ている
植物が呼吸しているような感じ…梅雨の到来を知らせる感じ、キライじゃない


ブォンブォン…ブロロロ


「おはよ、美斗」

歩くあたしの横に止まったバイク

「おはよ、ルカ、コウちゃん。今日は、雨だって言ってたよ」

「えっ?誰が?」

「んっと、お天気お姉さん」

「カンケーねぇよ、じゃあよ、先に行くからよ」

「あ、待って!お弁当持ってってくんない?」

そう言って、弁当が入った袋を後部シートにすわるルカに手渡した

「はいよ、じゃねー」

ブロロロ、ブロロー


弁当分軽くなった気がする。
でもあれだね。お弁当は、そろそろ痛む時期だから、しばらく食堂だね
そんな事を考えながら、歩いているとポンっと肩を叩かれた

「あ、おはよ。白野君」

「おはよ、君の姿見かけたから急いじゃった」

キラリンと効果音が付きそうなほどに、輝く白い歯
まるで陶器みたい

「なんで?なんか用だった?」

「用ってんじゃないけど、少し話たくてさ。柚木さんは、体育祭は何に出るか決めた?」

「まだだけど?」

「あれ?聞いてない?毎年、優勝したクラスには、天之橋賞が貰えるんだよ」

なんですか、ソレ?
金になるもんですか?

「それって、なあに?」

「優勝したクラスは、1ヵ月間の食堂パスが貰えるんだ」

「食堂パス?!」

「何食べても、どれだけ食べてもタダ」

「マジ?それスゴいね!理事長は泣きが入る行事かもしれないけど…」

「うん、だからさ…はば学の体育祭はみんな気合い入ってんだよね」

白野君の話に、相槌を打ちながら考える
弁当打ち止めを考えていたあたしには、まさに棚からボタモチ?

「白野君、リレーとか短距離に出るんでしょ?」

白野君て、足速いんだよね。勝ちたい。非常に勝ちたい
食堂パスがほしい

「考え中」

は?何を考える必要がある?

「柚木さんが、うちのクラスのマスコットガールやってくれるなら、俺は死ぬ気で走るよ」

マスコットガールだ?
なんだね、それは。

「ヨォ!直樹。」

そう声を掛けてきたのは、同じクラスの平くん

「あ、柚木さん…おはよう」

「おはよ、タイラー」

白野君は、タイラーの顔を見て思い出したように言った
「そういえば、去年のフォークダンスでタイラーは男と踊ってたよな(笑)」

「あー…体調悪いだとか見学だとかで、女子が足んなくなって…なんで男と手繋いでんだろって悲しくなったよ」

タイラーが、眉尻を下げていうから、その光景が目に浮かんできて思わず吹き出してしまった

「ぷっ あはは」

「あー…」

タイラーが、ポカンとあたしを見ている

「どうした?タイラー。柚木さんの笑顔に落ちた?」

「…そうかもしんない…いや、なんでも!ハハハ
俺、先に行くね!」

タイラーは、赤面しながら慌てて駆け出していった

「タイラーもか…あいつならライバルにはならねーな」

「ん、なぁに?」

「なんでもないよ。ちょっと急ごう?予鈴ギリかも」
そう言われて、歩く速度をあげて校門をくぐった


「あ、紺野先輩!おはようございます」

「やぁ、柚木さん。おはよう」

生徒玄関で、抜き打ち検査をしている紺野先輩に出くわした

「君は、引っ掛かるようなところはないね」

「よかった。紺野先輩、いつも大変ですね…」

「仕方ないさ、そうだ!キミ、今度の休み…」

♪♪♪♪♪♪♪
「柚木!予鈴鳴ったぞ!急げ」

紺野先輩が、何かいいかけたその時、あたしは促されるように白野君を見た

「ごめん。なんでもないよ。早く行った方がいい」

「そうですか?じゃ、また」
紺野先輩に、軽く一礼して足早に教室に向かう
一瞬、背中に視線を感じて振り向くと、コチラを見つめたままの紺野先輩と目が合って、あたしは手を振ったのだった
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