story

□アッチの世界
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「なんだい、ニヤけたツラして。」

もともと今日は、バイクの免許が手に入ることもあって、ガソスタのバイトは休みの希望出していたんだが、今日のシフトの奴が熱出したとかで、俺が代わりに出ることになった

ったくよ、自己管理がなってねーんだよ

「ああ?別にニヤけてねーだろが」

「何かいいことでもあるのかい?」

ビビりもせずに、俺に話しかけてくるのは、はね学に通う藤堂という女だ

「ああ、まぁよ」

時計を見ると、19時半をまわっていた。あと、30分
いつもは、21時までなんだが、店長が気ぃ使ってくれたらしい


この年になって、誕生日だからって浮き足だつわけじゃねーが…それでも、誰かが俺の存在を喜んでくれるってんのは、素直に嬉しい

「まぁ…悪かねぇ」


洗車後の水滴を、タオルで拭きながらポツリという
今頃、二人してバカやってんだろうな
なんか買ってってやるか?甘いもんでもよ




「お疲れしたぁ〜」

「桜井、お疲れ」
藤堂が、ノズルを給油口に入れながら、軽く手を挙げた

「おう、じゃあよ」

バイクに跨がる前に、美斗に電話する

「もしもし?」

「おぅ、俺だ。わりぃな、遅くなって。今からそっち、向かうからよ」

美斗の「気をつけて」に軽く返事をしながら、バイクを走らせた









ピンポーン

インターホンを鳴らすと、中からパタパタと忙しなく走ってくる音が聞こえてきて、ドアが開いた

「お疲れ、コウちゃん!」

「お、おぅ」

「先に、お風呂にする?それとも、あたしにする?それとも…ギョ・ウ・ザ?」

見れば、ほんのり頬がピンク色に染まっている美斗

「なんだ?呑んでんのかよ?」

「少しよ、少し。とにかく上がってよ」

「オイ、美斗。ほら、差し入れだ」

そういって、美斗に手渡すとデカイ目がキラキラして、大げさに喜んだ

「やった!アナスタシアのケーキだ。コウちゃん、ありがとう」

「ああ」

悪かねぇ、悪かねぇぞ
こんなに喜んでくれんなら、いくらでも買ってきてやる


「コウ、おかえり」

リビングに入ると、ルカが自分んちのように、くつろいでいた

「コウちゃん、見て!この餃子達」

皿に、てんこ盛りのそれは、まるでフードファイターのソレに似ていた

「作り過ぎだろ」

「とりあえず、出来たやつ食べない?熱いうちに」

そう言って、歪な形の餃子が、目の前に置かれた

「コウちゃん、何飲む?」

「てめぇらは、酒呑んでのか?」

そう聞くと、美斗はニンマリ笑って

「コウちゃん!誕生日おめでとう!カンパーイ」

と叫びやがった
どんだけテンション高ぇんだよ、こいつはよ

「コウ、早く食ってみて」

ルカの奴が、早く食え食え言うから、少し警戒しながらも、いい焼き具合の餃子を見ると箸が動いた

口に入れると、鼻からニンニクが抜けていく
中の具が、ニンニクの味しかしねぇ

「ニンニク多すぎねぇか?」

「そんなことないよね?おいしいよね?」

「コウには、スタミナつけてほしいと思ってサービスしといた」

ルカの仕業か!

「うん、お兄ちゃんには健康でいてもらわないと、ねっ」

「ねっ じゃねーだろうが!クセェんだよ」

「あ、コウが怒った!逃げろ」

ルカは、椅子から立ち上がるとリビングのソファ目掛けてダイブした
それを見て、美斗も 逃げろ逃げろとキッチンに身を隠す

「チッ ったくよ…。オイ、美斗、座れ。まず、食うべよ。反撃はそれからだ」

「あ、うん。待って、もう少しで第二弾焼ける」

「俺、もう食べらんない」

ルカが、ソファに寝転がったままコッチを見て言った

「アナスタシアのケーキもあるよ?」

「食う」


「ふふっ ルカは、ホントに甘いものが好きだね」

「うん、好き」

そう言って、ケーキの箱を開けると「あれ?」とつぶやいた

「2コしかないよ?」

「てめぇらの分がありゃ、いいだろが」

そう言いながら餃子を口に運んだ



「コウちゃん、ご飯食べる?」

美斗が、茶碗を片手に白飯食うかジェスチャーしている

「ああ、もらう」


「でも…自分の誕生日なのに、ケーキ食べれないなんて、損してるよね」

「甘いもん苦手なのはよ、親父譲りなんだよ」

腹ペコだった俺は、美斗から茶碗を受け取り、餃子をオカズに箸を進める
餃子パーティーってより、ただの夕食会だな、こりゃ

視線を感じて、そっちをみると、美斗がテーブルに肘を立て己の顔を手で支えながら、ムフフと笑っている

「なんだよ、気持ちわりぃ」

「こういうのいいなぁーって思って…」

「はぁ?なにが」

「だから、こういうの」

まぁ、美斗が言いたい事はなんとなくわかるけどよ
美斗は、グラスの氷を、指で浮かせたり、沈ませたりしている
そのたびに、小さな発泡が弾けて焼酎の匂いが、僅かにした
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