犬僕
□結局、
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妖館ラウンジにて。
「そーたーん♪」
「こんにちは、夏目さん。今日もお元気でいらっしゃいますね」
あぁ、またやってる。
俺、渡狸卍里のSSである夏目残夏は、
いつも、狐ヤローに絡みに行く。
…俺のことなんて、ほったらかしで。
「そーたん、今日はどこか出掛けるのー?」
「ええ、凛々蝶様のお買い物にお付き合いする予定です。」
「てことは、ちよたんとデートみたいなもんかぁ〜☆」
「ふふ、そうなりますね。…実際は蜻蛉様が一番ですけどね。」
「リア充だね〜☆」
何がリア充だ。お前をずっと好きな俺の気持ちも知らないで。
(…残夏のばーか…)
そう心で呟いたとき、残夏がこっちを見た。…気がしただけかも知れないけど。
「わーたぬきっ」
「!?」
気のせいじゃなかった。
テーブルに突っ伏していた俺は勢いよく起き上がる。
「ざっ、残夏!?」
「そーたんがちよたんと出掛けちゃったし、渡狸がこっち見てるから来てみたんだけど…何そんなにうろたえてんの〜?……ていうか、さっきの、何?」
一呼吸置いてから聞こえてきた残夏の声は、いつもより一オクターブぐらい低かった。
怒って…るのか…?
「………ッ」
「ちょっと、わたぬ…「馬鹿だって言ってんだよ!!残夏の馬鹿!!…俺の気持ちも知らないで狐ヤローといちゃいちゃしやがって!…心読めんなら…少しは、俺の気持ち、気づいてくれよ…っ」
言ってからすぐ後悔した。これじゃ残夏のことが好きってのバレバレじゃん。…それに、勢い余って立ち上がっちゃったし。
「…え、わ「ちっ、違う!そうじゃ、なくて…っう、ちが…っ…忘れて、くれ…っ」
心臓が痛いくらい脈打つ。上手く息が出来ない。
「渡狸、ボクの話も聞いて。」
俺を落ち着かせようとしてるのか、いつものおちゃらけた口調ではなかった。
「ボクはね、渡狸のことが好きだよ。」
ほら、やっぱりあの狐ヤローが………って
「…え?」
「だから、ボクは最初から渡狸が好きだったよ。」
「…うそ、だろ…?」
「ホントだって〜☆ボクを信じなよ♪」
そう言って俺の頬を両手で包み込んでくる残夏。…顔に熱が集まるのがわかる。
「ざ、んげ…「好きだよ、渡狸」
そう言って、残夏は俺を抱きしめてきた。
頭一個分くらい身長が違う残夏に俺はすっぽりと収まった。
嬉しさと恥ずかしさが入り混じって複雑な気持ちのなか、俺はそっと残夏の腰に手を回した。
end