□貞松さんが京摩くんの髪を洗ってあげるだけ
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「…京摩、髪に絵の具ついてる。髪痛むよ」
「あ?…あぁ、別にいいっつの。女子じゃあるまいし」

心底どうでもいいといった様子で俺が返すと、いかにも残念ですといったような声音で、

「…こんなに綺麗なのに…」

と俺の髪を撫でながら言ってきた。少し罪悪感が湧いて、俺は半ばやけくそになりながら言った。

「じゃあお前が洗え」と。



…もちろんその時は冗談のつもりで言った、のだが。貞松は本気に取ったようで、目をキラキラと光らせながら「わかった」と答えた。だけど、こんな口約束などすぐに忘れるだろうと俺は思っていた。




…なのに。
どうしてこうなった?


今、俺は自室備え付けの風呂に居た。…貞松と共に。
なぜ図体のいい男二人で狭い風呂に入らなくてはいけないのだろうか。
というか、…仮にも恋人同士なわけで、恋人同士で風呂ってのは些か問題がある気がする。

「京摩、熱くない?大丈夫?」
「・・・あ、あぁ」

どうやら意識しているのは自分だけのようで、貞松はいつも通り抑揚のない声で背後から話しかけてくる。
別に望んでいたわけではないが、恋人なら少しはこう・・・緊張しててもいいと思う。
そりゃ男同士で意識もクソもないと思うけれども。

「洗うよ・・・?」
「別に、いちいち言わなくていいっつの」
「そう・・・?」

優しく撫でるように洗っている貞松。気恥ずかしさに顔に熱が集まるのがわかった。
それとともに心地よさを伴い、少しずつうとうとし出すのを頑張って持ち堪えたのだった。

「・・・じゃあ、洗い落とすね」
「・・・ん、」

ぬるくもなく熱くもない適温のお湯でシャンプーを洗い流される。

そんなこんなで、頭を洗うのは終了したわけで。「体も洗う?」と言われた際全力で拒否した。
俺だけ入るのもなんだと思い、貞松もそのまま一緒に風呂に入ればいいと言った。(貞松があまりに気にもかけていないようなので、俺も殆ど気にしなくなった)

俺はさっさと体を洗い終わり、湯船に浸かる。その間に貞松は自分の髪と頭を洗っていた。
このままあとは出るだけ、と思っていたのだが。




「・・・何入ってきてんだよ」
「え?・・・駄目だった?」
「当たり前だろ!狭い!お湯がもったいねえ!」
「・・・ちょっとだけ」
「ちょっとじゃな・・・ってうわぁ!?抱きつくなっ、くすぐったい!」

後ろから抱きつかれ、肩口に頭をぐりぐり押し付けられた。いくらお互いタオルを巻いているからと言って、この状態はまずい・・・と思うんだが・・・

「京摩・・・」

少し熱っぽい声で耳元で囁かれる。背筋がぞわぞわと粟立ち、また顔に熱が集まる。そのまま耳を舐められた。

「っひ!?」
「京摩・・・耳弱い?」
「んな・・・っ、こと、な・・・」
「なら、これは・・・?」

そう言った貞松の手が、俺の胸元へと伸びていく。

「っあ、・・・やっ・・・めろ・・・っ」
「京摩、可愛い・・・」
「っ、あ・・・っう、んんっ」

自分の声とは思えない高い声があがる。羞恥で涙が零れそうになった。

「っは、っ・・・や、ぁだっ、!」

いきなり暴れたことに驚いたのか、俺を拘束していた貞松の腕が離れる。その隙に俺は風呂を出た。
お湯でびちゃびちゃになったタオルをとり、適当に洗面所に置いておく。
バスタオルで体と髪を乱雑に拭き、さっさと服を着る。
貞松が風呂から上がってきた時、俺はどういう顔をすればいいのか。顔の火照りが治まらないまま、俺はそれだけを考えていたのだった。

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