陽炎
□スターチス
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「シンタローさん、カノの誕生日何あげるんすか?」
「…は?誕生日?」
あいつの誕生日を知ったのは、その日の数日前だった。
***
「…どうすればいいんだ」
今俺は、通販サイトやらを巡りに巡ってカノにあげる誕生日プレゼントを探していた。
『ごーしゅーじんー!!こんなのどうですか!ペアルック!!!』
「なんだよそのyesno枕Tシャツにしましたみたいな柄!?ダメだろ!!」
『ちぇー…』
エネも何故か協力的で(いつもこうだといいんだが)、いろんな意味で俺には思い付かないであろうプレゼント候補を探しだしてくる。
でも、
「…なんか…違う」
いまいちこれといったものが見つからないでいた。
***
次の日。カノの誕生日の二日前。
今日も俺は、カノにあげるプレゼントを探していた。
服、アクセサリー、バッグ…手当たり次第見て回ったが、やっぱり決定には至れないままでいた。
『ご主人ー、最低今日までに決めないと10日までに配達されませんよ?』
「わかってる…わかってるけどさ」
でもやっぱり、初めての恋人の誕生日プレゼントは、あいつがすごく喜んでくれるものがいいだろ。
そう俺が呟くと、エネはにやぁーっと笑って、
『ご主人…かぁっこいいじゃないですかぁ!!このこの!!』
そういって手をこちらに向けて、上下にぶんぶん振っていた。
「うっせーな!…いいから探すぞ」
『了解でーっす』
エネはそう言うと、敬礼をのポーズをしてプレゼント探しを再開した。
そして時は過ぎ、日付も変わろうという時間になった。
未だにプレゼントは決まらないまま。
『ご主人…』
「…くそ…仕方ない…最終手段か」
『本当に大丈夫ですか?』
「それが前俺を無理矢理連れ出したやつの台詞かよ」
『いやぁ、結局あれでカノさんと出会えたんですし結果オーライじゃないですか』
「…まぁな」
そう言って、俺はカノとのファーストコンタクトを思いだして少し気恥ずかしいような気分になりながらもクローゼットを開いた。
***
またまた時は過ぎ、昼頃の街中に、俺は居た。
「…人いすぎだろ…」
『そりゃあ休日ですからねぇ。とっとと終わらせて帰りましょう!』
俺は、はぁ、と一回ため息を吐くと、ある店に向かって歩き出した。
***
あれを四苦八苦しながらも完成して、カノの誕生日まであと一時間を切った。
「…なんか緊張してきた…」
『ご主人は相変わらずのヘボメンタルですねぇ…そんなんじゃ大事なとこで盛大に噛んじゃいますよ』
「そういうフラグ立てるのやめろよ!!…深呼吸、深呼吸……、よし、」
スマホを取り、カノの携帯へと電話をかける。
コール音がなる中、チラッとパソコンを見るとエネが「ファイトですご主人!!」という旗を両手で持って振っていて、少し緊張が解れたのだった。
「…もしもし?」
「…あ、カノ、今からそっち言っても大丈夫か?」
「大丈夫だけど…もしかして夜這い〜?誰を〜?」
「なっ、ち、ちげーよ!!!」
「あっははは!冗談だって。うん、じゃあ待ってるね〜」
「…お、おう」
ピ、と通話終了ボタンをタップすると、プレゼント入りの袋とエネ入りのスマホだけを持って家を出た。
只今、5月9日23時30分。
***
アジトの扉を開くと、セトとキドとカノの三人が居た。
いらっしゃい、シンタロー君と言うカノにあぁ、と返事をしてカノの頭を撫でてやり、セトとキドに近寄る。
朝からモモは仕事なので、カノの誕生日を祝えないのを悔しがってた、と二人に教えてやると、二人はまるで自分のことのように嬉しそうな顔をしていた。ただ、セトはふふふっと笑って、キドは微笑みを隠すようにフードを被るという差はあったが。
「何々、なんの話?僕も混ぜてよ」
「カノにはまだ早い話っすよ!」
「なにそれ!?子供扱いしないでよ!」
カノは救いを求めるように俺を見た。
俺はふっと笑って、
「すぐにわかるよ」
と言ってやった。カノはさらに意味がわからなくなったようで、首を傾げる。
只今、5月9日23時56分。
キドとセトが気をきかせてくれたのか、適当な理由をつけて自室へと篭り、リビングは俺とカノの二人きりになった。俺とカノはソファに座って、俺はスマホを弄ったフリをしつつ時計確認、カノは俺にもたれ掛かる体制になった。
「ねぇねぇシンタロー君テーブルに置いてある紙袋なーに?」
「秘密」
「えー!?」
俺はスマホの23:59:30の文字を確認すると、スマホをポケットに入れてカノを見つめた。
「カノ」
「…?うん?」
お互い向きあって、ソファに置かれたカノの手の甲の上に自分の手を重ねる。
いつもは絶対にしないであろうことをされて驚いたのか、カノは少し頬を染め、何かを期待するように俺を見る。
カチコチと時計の秒針が動く音だけが響く部屋で、俺の心臓の音も聞こえてしまうんじゃないかと言うくらいばくばくいっていた。
そして横目で時計を見て、秒針が12に重なる時。
「誕生日おめでとう、カノ」
「…え」
「何あげればカノ喜ぶかわかんなくてな…気に入らなかったら捨ててくれ」
そう言いながら紙袋を渡す。
中身は、小さな箱と黄色の花の鉢植え。
「…こ、れ…何?」
喜んでくれてるのか、声を震わせながらリボンをかけられた小さな箱を手にとるカノ。
「開けてみろよ」
カノが箱を開けると、そこには赤と灰色のビーズで作られた不格好な指輪。
「…これ、」
「俺が作ったんだよ…買うときビーズ恥ずかしかったけどな、」
カノは目を見開いて俺を見ると、指輪を両手で包んで胸元にあて、俯いた。
「…はは、確かに…ちょっと不格好だね、…でも…すごく嬉しい、ありがとう。大事にするね」
顔をあげたカノの大きな猫目からは涙が溢れていた。
それを隠すことも拭うこともせずに、カノは笑った。
嘘なんて微塵も感じられない、幸せそうに。
「…あぁ、」
俺も自然と笑みが溢れた。
「…あ、そう言えば…この花、何て言うの?綺麗だね」
涙を拭って、カノは鉢植えを手にした。
「それ?…それは、スターチスっつー花だよ」
「へぇ…!これも僕に?」
「あぁ、」
「最高の誕生日だよ…ありがとう、シンタロー君。大好き」
「…ん、俺も」
そう言って俺はカノにキスをした。
スターチス。5月から6月にかけて咲く花で、赤、ピンク、黄色、青、紫、白、など様々な色がある。
その花言葉は…『変わらぬ心』、『永遠に変わらない』、『いたずら心』、など。
俺があげた精一杯に、カノはいつ気付くだろうな?