陽炎

□宝探しのその先は
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『宝探ししようよ!シンタロー君には答えがみつけられるかな?』

明らかに人を小馬鹿にしたような文が書かれたメモ紙と畳まれたもう一枚のメモが枕元にあった。
誰が書いたかは一目両全だし、ただ俺をからかっているだけだと思っていたが、どうせ暇だしと思って、俺はカノの悪戯に付き合ってやることにした。



『ひとつめ シンタロー君のお部屋にいる子の場所』
と、畳まれた方のメモには書いてあった。

俺の部屋…って言うと、殿のことか?
殿の檻の中を見てみると、殿の餌入れにセロハンテープでメモが貼られていた。

『まぁこれくらいは出来るよね!じゃあふたつめ、キサラギちゃんの好きな飲み物の置き場』
これくらいってなんだよ、これくらいって…
…で、モモの好きな飲み物だっけ?

そして俺はすぐに「あれ」だと気付いた。


「…やっぱりな」

冷蔵庫を覗くと、モモがしょっちゅう飲んでいる"おしるコーラ"のペットボトルがあって、ラベルの部分にまたしてもメモがセロハンテープで貼り付けられていた。

『寒かったよ〜!…なんてね?じゃあ、みっつめ!シンタロー君がいつも荷物を受け取る場所だよ。出かけられる格好でくるといいかもね』

あぁ、玄関か…というか、結局カノは何がしたいんだよ…?
俺は疑問を抱きつつも長ズボンに穿きかえて、アイデンティティとなりつつある赤ジャージを着て、エネはいなかったがスマホを持って玄関へと向かった。


俺の家はポストが玄関と繋がっていて、外に出なくても郵便物が取り出せるようになっている。
玄関につくとポストは開いていて、その中にもメモがあった。

『おつかれさま〜!次で最後だよ。僕、キド、マリー、セトに初めて会った場所は?』

メモを流し読むと、俺はメモをポケットに突っ込み、家を出た。


少しずつ見えてくる"107"の文字。
今日は春先とは思えない蒸し暑さで、額にじんわりと汗が滲んだ。
アジトの扉に手をかけ、開いたらカノに文句の一つでも言ってやろうと思っていた。
そして扉を開けると、

『シンタロー(君)(さん)お誕生日おめでとうー!!(っす!)』

皆の言葉と共に、クラッカーが鳴った。

…は?

「あはは、シンタロー君呆けてる!間抜けな顔ーw」
「こーら、カノ!今日はそういうのナシって言ったじゃないすか!」
「はーいはい、シンタロー君、よかったよ〜、ちゃんとたどり着けたね」
「…ちょ、ちょっと待て、どういうことだ?」
「だからー、お兄ちゃん、言ったじゃん!今日はお兄ちゃんの誕生日でしょ!みんなで誕生パーティーしよってカノさんが提案してくれたんだよ!」
「…カノが?」

そう言ってカノを見ると、目があった瞬間カノは顔を赤く染めてすぐに目を逸らした。

「おじさん、早く座ってよ。始まらないんだけど」
「うん…シンタロー、キドがケーキ作ったんだよ、おいしそうだよ」
『ちょっとニセモノさーん!食べちゃだめですよ!仮にもご主人のために作られたケーキなんですよ!』
「う…ごめん」

いないと思っていたエネはモモのスマホに入っており、ケーキに手を出そうとしているコノハを叱り付けていた。
っておい、仮にもってなんだよ、仮にもって。

ヒビヤにぐいぐい押されるままソファに座らせられると、マリーが俺の頭にポンポン付きのパーティー帽子を被せてきた。
…なんか、照れるな。

「シンタロー、俺も腕によりをかけて作ったぞ。心して食え」
「キドねー、すごくはりきってご馳走作ってたよ!言い方冷たいけど頑張ってたから食べてあげてよ、もーほんとツンデレなんだからつぼみちゃブフォッ」

カノはキドに蹴りを入れられて蹲った。
余計なこと言うからだろ…

「…じゃあ、いただきます」
「わっ、私も作ったんだよ…!このゼリー。食べて食べて…!」
「あ、あぁ、じゃあもらうよ」

そう言っていくつかある緑色のゼリー(見た目からしてメロン味かなんかだと思う)を手にとり、口にした。そのとき、

「あ、お兄ちゃんそれ私が作ったやつ」

それを聞いて盛大に噎せた。

「ゲッホ、ゴホッモモ!お前は料理すんなって・・・、っゲホッ!」
「あーあ、シンタロー君大丈夫?……ふふっ」

カノは笑いを堪えつつ俺に水を渡してくれた。…こらえきれてないけどな…
水を飲んで一先ず落ち着きを取り戻した俺は、モモが作ったというゼリーと他のゼリーを見比べた。すると僅かにモモの作ったゼリーは色が濃かったことがわかった。

「……おいモモ、これ何入れた?」
「え?きゅうりだよ?」

悪びれもせずあっさりと答えたモモ。味を想像してしまったのか、キドはうめき声を洩らして口許を両手で押さえた。

「…………味付けは?」
「砂糖!」
「……うん、もういい…」

俺は、モモの作ったキュウリゼリー(仮)を食すのは断念したのだった。


…それから数時間。
俺たちは飲み食いはもちろんトランプをしたりした。
…こんな誕生日は初めてだな。
大勢で自分の誕生日を祝ってもらうなんていうことは夢にも見なかったからか、正直未だに信じられないフシはあるが、俺は純粋に嬉しかった。

「ねぇ、シンタロー君」

すでにババヌキでコノハが3連勝して、残るはマリーとヒビヤとキドの三人だけとなっているときだった。
三人ともポーカーフェイスが出来ないようで、勝負はなかなか決まっていなかった。

「なんだよ、カノ」
「…僕からも、個別にプレゼントあるんだ。これ終わったら、僕の部屋来てよ」
「…!」
隣に座ったカノの顔を見ると、顔を赤くさせてうつ向いていた。

「…わかった、」
「……ん、」

へへ、と笑って、カノは俺に寄りかかった。

「…そういえば、カノ」
「…ん?」
「結局…宝ってなんだったんだよ?パーティーってことじゃねぇんだろ?」
「うん、そうだよ?」
「…じゃあなんだよ?」
「…あのね、」

そこまで言ってカノは俺に耳打ちした。

「それはね、『友達』だよ」

振り返った俺に、カノは欺かずに微笑んだ。




カノが俺にくれたというプレゼントは、また別の話だ。

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