陽炎

□本当の嘘
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四月馬鹿の日、いわばエイプリルフール。
嘘を言っても許される日。
逆に『彼』の場合は、今日言う言葉は全て嘘だと思われているようで、
『彼』は、そのことを利用して、
好きな人に告白すると決めたようです。






春も近づいてきたとは言え、まだ肌寒い四月一日の午後。
今日は快晴で、出かけるのにもちょうどいいくらいの日だった。
そんな中、シンタローはカノに呼び出され、アジトの近くの公園へと呼び出されていた。

「シンタローくーん、こっちこっち」

桜の蕾が膨らみ始めた木の下のベンチで、カノは座ってシンタローに手を振っていた。

「・・・悪いな、遅くなって」
「ううん、大丈夫。急に呼び出した僕もあれだし」

座りなよ、と言われ、カノの隣へとシンタローは腰掛けた。

「で、話って?」
「あー、そうだねぇ、まぁお茶でも飲みなよ」
「え?あ、あぁ」

はい、と手渡されたのは、未開封のコーラだった。

「お茶じゃねえじゃん」
「あは、お茶なんて言ったかなあ?でも、シンタロー君コーラ好きでしょ?」
「・・・まぁ、そうだけどよ」

何かはぐらかされたような気もするが、気にしていないフリをしてコーラを飲んだ。
シンタローが横目でカノを見ると、カノはどこか寂寥感を帯びた目でどこかを見つめていた。
そんないつもと違うカノに違和感を感じながらも、シンタローはコーラのキャップを閉める。

「・・・・・・・・」

お互い話題を切り出さない、いや切り出せないまま、肌寒い風が二人の目の前を通り抜けた。

「・・・シンタロー君、」

そっとカノが口を開く。はっとしてシンタローがカノを見ると、カノはいつもの貼り付けたようなニヤケ顔ではなく、微笑みを浮かべてシンタローを見つめていた。

「今日はエイプリルフールだねぇ、」
「そうだな・・・お前の十八番が十分発揮されるんじゃねえの」
「いやいや、最初はみんなあっさり引っかかってくれてたんだけど・・・最近みんな今日は僕が嘘つくのわかってるか、らなんでも疑ってかかってくるからね〜。本当のこと言っても信じてくれないの」
「あぁ・・・」

苦笑を含んだ声でシンタローは相槌を打つ。

「だからね、シンタロー君も何か引っ掛けようかと思ってたんだけど・・・その様子じゃあ、身構えられてるみたいだね」
「たりめーだ。で?嘘つきにきたのか?」
「うー・・・ん、どうだろうね?法螺話かもしれないし、本当かもしれない。信じるかどうかはシンタロー君次第かな」
「あっそ・・・」

今日はいつにも増してカノが気まぐれな気がした。

「シンタロー君、」

カノは立ち上がり、俺の目の前に立つ。吸い込まれるように俺はカノを見つめた。

「シンタロー君、君は僕をどう思ってる?」
「はぁ?どうって・・・別に、」

いきなりなんだと思う反面、シンタローは戸惑っていた。この状況に心臓が跳ねだす自分に気がついたからだ。
曖昧に答えを濁すシンタローを、まぁそんなものだろうと思っていたのか、カノは特に感情も出さずに続ける。

「まぁ、そうだろうね。・・・シンタロー君、僕はね、シンタロー君が好きだよ」

ざあ、っと風が吹いて、咲き掛けていた桜の花弁が何枚か散った。
カノは、欺いているのかなんなのか、微笑みを崩さないままだった。
シンタローが何も言わないでいると、カノは、

「じゃあ、それだけ。まったね〜、シンタロー君」

そう言って踵を返し、手をひらひら振りながら家路につこうとしていた。

「・・・お前、こういうところ爪甘いのな、カノ」

まさかシンタローが何か言ってくるとは思っていなかったのか、カノは少し驚いたような顔でシンタローへと振り返った。

「・・・何がかな?」

それでもまだ、微笑みは崩さないまま。

「お前は、勘違いしてる」

シンタローは言った。
カノは、シンタローが何を言っているかわからないと言うように首を傾げた。
そしてシンタローは、また口を開く。


「嘘をついていいのは、午前中だけだぞ」





そのまま、時が経った。
数秒かも知れないし、数分かもしれない。だが、カノも、シンタローも、その場から離れることは無かった。
カノは、俯いて、沈黙を破った。

「・・・あはっ、シンタロー君、最高だよ」

流石、頭良いだけのことはあるね、とカノは言う。
それを言われるのは嫌いだ、とシンタローは言う。

「・・・そう、さっきのは・・・嘘なんかじゃないよ、・・・本当に、僕は、シンタロー君が・・・好き」

言葉を噛み締めるように、ゆっくりと言葉を紡ぐカノ。
そっとカノが顔を上げる。その顔は真っ赤に染まっていて、目じりには涙も溜まっているようだった。

「・・・ッ、」

シンタローは息を飲む。こんなカノは初めて見た、と思った。
抱き締めたい。そんな衝動に駆られ、カノに近づいてカノを抱き寄せる。
心臓の音が、聞こえてしまうんじゃないかというほどにドクドクと脈打っていた。
カノが息を飲んだのがわかった。
俺は、柄にも無くしてしまった行動に少し羞恥を覚えつつ、震えそうな腕を抑え、息を吸って、言った。


「・・・俺もカノが好きだ・・・付き合って、ほしい」
「・・・ッ!」

そっとカノが俺の背中に腕を回す。そして、俺を見て、


「・・・はい」

と、はにかみながら微笑んだのだった。

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