陽炎

□如月家にカノさんが住み込むようです
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如月家の朝。
いつもはシンタローの部屋から爆音でサイレンが流されるのだが、今日は鳴らなかった。

かわりに、
「しーんたろーくーん、起きてよーっ」
起こしに来る者が一人。

「あ…?あと2時間…」
「だーめだって!起きてってば!ねーっ」

ゆさゆさと体を揺さぶられ、渋々起き上がるシンタローの目は、いつも以上に死んでいた。

「…カノ、」
「うん?」
「おはようのちゅーは?」
「なんでそうなるの」
「恋人が起こしにくるってのはおはようのちゅーが付き物だろ?」
「エロゲのやり過ぎじゃないの?…はぁ、仕方ないなぁ…」

ちゅ、とただ唇をくっつけるだけの稚拙なものではあったが、シンタローは満足したようで、目が精気を取り戻した。

「ん、よし、目ぇ覚めた」
「ならよかった。今日のご飯フレンチトーストだよ」
「シャレオツってやつか」
「はいはい」

カノはシンタローのボケを軽くスルーして、シンタローを階下へと促した。

「ほら、行くよ?」
「んー…あ、カノ」
「何?」

シンタローに呼ばれ、振り返ったカノに、シンタローはカノを後ろから抱きしめ軽くキスをした。

「…!?な、ななな何を…!?」
「おはようのちゅー。じゃ、先下行ってるからモモ起こしてこいよ」
「…シンタロー君のバカ…うん、わかった」

タンタンタン、と階段を降りていくシンタローを見送りつつ、カノはモモの部屋へと向かった。



「…おーい、キサラギちゃん、起きてよ、朝ごはんー」
「…うぅ、ん…バニラビーンズカレー…」
「甘いのか辛いのかどっちかにしようよ。…ってそうじゃない、起きてってば」
「…うーん…、カノさん…?」
「あ、起きた?おはよう」
「カノさん…女装したらどうですか?」
「なんでそうなるの」
「いや、似合うと思って。ところで今日の朝ご飯はバニラビーンズカレーがいi「フレンチトーストだよ」

ほら早く行くよ、シンタロー君待ってるんだから、とモモを急かし、二人はリビングへと向かった。

「おはよー、お兄ちゃん」
「おー」
「じゃ揃ったし、食べよっか」
「ん」

そういって三人は、カノの作ったフレンチトーストを食べ始めた。


◇◆◇◆


時は過ぎ、午後。
カノは一人リビングでテレビを見ていた。春先とは言え肌寒いこの季節、カノはもうちょっと重ね着すればよかったかな、と思いつつそのままでいた。

「…ふ、え、…っくしゅんっ!」
『寒くないんですかカノさん?』
「うわぁ!?ちょ、エネちゃん急に僕の携帯に入ってこないでって…」
『えーなんでです?あ、とりあえずさっきのくしゃみが可愛らしかったのでムービーとってご主人に送っておきましたんで☆』
「なんで!?っていうか撮れたの!?あのタイミングで!?」
『ええ、それはもうバッチリ』
「…あぁそう…」
『ちなみに他にもカノさんの恥ずかしい写真とか押さえてありますからね!例えば寝てるときご主人を寝言で呼んでることとか』
「え、ほんと…?そ、それまさかシンタロー君には」
『しっかり送りましたよ!そしたら見終わったあとどこかへ行って10分くらい帰ってきませんでしたが』
「…そう…」

なんでとは聞かなかった。

「んー…そろそろ三時か、おやつ買ってこようかなぁ」
『ご主人さっきコーラ飲み終えてたみたいなんで、それも買ってきてもらえると!』
「ん、了解。なんだかんだでエネちゃんシンタロー君に優しいよねぇ」
『そーですかねぇ?』
「うん」




◇◆◇◆


「あれ?カノさんどこいくんですか?」
「ん?ちょっとコンビニ」
「あっじゃあお汁粉炭酸買って来てもらえます?」
「あぁうん…あたりめもいる?」
「あ、お願いしますーじゃ、行ってらっしゃいのキスを」

カノが靴を履く手を止め、え、と振り返る前に、頬に柔らかいものがあてられた。

「じゃ、行ってらっしゃいです」
「う、うん…」
「ちょっと待てモモ、貴様今俺のカノに何をした」

カノが立ち上がり出ようとしたとき、いつの間にか来ていたシンタローがモモに険しい形相で詰め寄った。

「あれ、お兄ちゃん。行ってらっしゃいのキスしただけだけど」
「なんでだよ、それだったら俺もする」
「え」

カノが驚き振り返ると同時に腕を引かれ、シンタローはカノに軽くキスをする。
何度キスされても慣れないのか、カノは顔を真っ赤にしていた。

「じゃ、いってら」
「あぁ、う、うん、行ってくる…」

なんでコンビニに行くだけで見送られなくちゃいけないんだろうと思いつつ、カノは如月家を後にした。





◇◆◇◆



「ただいまー、コーラ買ってきたよ」
「おー、マジ?さんきゅ」
「エネちゃんから頼まれたからさ。ご主人のコーラなくなったみたいなんでついでにお願いします!って」
「そうか…あぁ、そういやエネで思い出した。さっきのくしゃみしてるムービー可愛かったぜ」
「あぁ、見たんだ…」

心の奥で少しエネを呪いつつ、顔には出さずシンタローにコーラを手渡した。


ちなみに、渡したあとに「おかえりのちゅー」をされたのは言うまでもない。




◇◆◇◆


午前1時過ぎ。とっぷり夜も更けたころに、シンタローとカノは一緒に某リズムゲームをしていた。

「ねぇシンタロー君寝ないの…?僕、そろそろ寝たいんだけど」
「じゃ、寝るか。俺も眠い」
「ん、じゃあおやすみ」

そう言って部屋を出ようとしたカノをシンタローは引きとめ、「一緒に寝ようぜ」と言った。

「え?まぁ、いいけど…じゃ、お邪魔します…?」

カノは何をお邪魔するのか自分でもわからなかったが、とりあえずシンタローにひっぱられるがままにシンタローのベッドに寝転がった。

「じゃ、おやすみ、カノ」
「うん、おやすみ、シンタロー君」

シンタローは枕もとにあるリモコンで豆電球に変え、カノを抱き枕のように抱きしめてすぐ寝てしまった。

「早…。…ふふ、おやすみ、シンタロー君」

小さく「おやすみのちゅーね」と言い、カノはシンタローに軽くキスをし、シンタローに抱き枕にされるがまま重くなっていた瞼を閉じた。

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