陽炎
□壊れるほどに
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「アヤノ、どうした?」
「なんっ…でも、ない、よ、シンタロー」
「そう、か…?」
そう言って頭を撫でてくれるシンタロー君の手は優しくて、
どれだけ、シンタロー君が「アヤノ」を好きだったかを思い知らされた。
わかっていたことだけれど、
やっぱり、僕のことは見てくれないんだ
そう思うと、涙が止まらなかった。
それを見て、シンタロー君はどう思っただろう、なんて、頭の片隅で考えた。
ふと、一瞬シンタロー君の顔がいつもの無愛想な表情に変わったのも知らずに。
それから数日後。
「カノ」
「あ、シンタロー君、どうし…
「別れよう」
二人きりとなったアジトで、久しぶりに「僕」の姿のときに、話されたことは、
別れ話だった。
「…え、なん、で」
動揺を隠せず、声が震える。
ああ、駄目だなぁ。こういうときこそ欺けばいいのに。
「…悪い」
シンタロー君は、
首を絞められたときと同じような声音で、同じことを言った。
「嫌だ」とも言えず、僕は、
ただ、小さく頷くことしかできなかった。