捧げ物
□重い想いは片想い
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太陽の光を浴びてキラキラと光るブロンドの髪。
真っ直ぐに前を見据えた迷いのない瞳。
そして周囲からの厚い人望。
クレスから見るその人物は、全てが彼の理想で。
だけど同時に手を伸ばそうともがいても一生届かないような気もした。
重い想いは片想い
「……っはぁ!!」
「っ、」
鋭く耳を刺す金属のぶつかり合う音。
あまりの衝撃に両手から剣は吹き飛び、ビリビリとその余韻にクレスの手が小さく震えた。
「………あり…がとうございました」
「いいや…、此方こそ。良い、練習になったよ」
バンエルティア号、甲板。
しばらく留守番続きのクレスはフレンの誘いで稽古に赴いていた。
術技使用禁止の剣と剣の真剣勝負。
自身の道場で鍛えた剣技はどの程度のものか、足りないものは何なのか、ハッキリ知るのに良い機会だった。もちろん断ることなく今にも至る。
お互い息を弾ませながら礼を交わす。
試合の興奮からか、それとも単に激しい運動をしたからか、なかなか呼吸が整わない。
それはフレンも同じらしく、暫く上を向いてゆっくりと肩を上下させていた。
「…気持ちいい」
「え?」
「クレスくんも、ほら」
促されクレスも顔を上に向ける。
視界いっぱいに映る、青空。
その鮮やかさに思わず息を呑む。
目を凝らせどもその果ては見えず、吸い込まれてしまうようにさえ感じた。
「クレスくん」
「………」
「クレスくん」
「ーーーっは、はい!!」
あまりの空の広さに呆けていると名を呼ばれた。
少し返事が遅れてしまったがフレンは咎めることなく、ふわりと笑みを浮かべる。
「綺麗な空だね」
「…はい」
「もう少しこうしていようか」
「はい…」
言ってフレンはまた空を見上げた。
クレスはちらりと隣で空を仰ぐ彼を盗み見る。
(………綺麗だな)
それは容姿だけじゃない。
穏やかな優しい声。
流れるような隙の無い剣技。
全てが綺麗で眩しくて、手の届かない存在。
今のように一緒に剣の稽古をしてくれるだけでも夢のように感じる。
だから、
こうして見ているだけで良い。
なんて、
本当はそばに居たい。
ユーリよりも、エステルよりも、誰よりもそばに。
我が儘ばかりの自分の頭にいい加減嫌気が差して視線を下に落とす。
その時少し離れたところから自分達を呼ぶ声が聞こえた。
「ユーリ」
「ユーリさん」
「お疲れ」
ひらひらと左手を軽く振って見せる。
それにクレスは小さく会釈して応えた。
「二人ともディセンダー様が呼んでるぜ。モンスターの討伐クエストだとよ」
「あぁ、分かった。今行く」
ユーリは要件を伝えると早々と船内に戻って行った。甲板はまた2人きりになる。
「………行きましょうか」
「あ、少し待ってくれるかな」
「はい?ーーーっ!?」
突然腕を掴まれて一気に引き寄せられる。
瞬間、唇に触れる柔らかい感触。
視界を埋め尽くすのは淡いブロンド。
状況を理解するのに少し時間を要した。が、すぐに気付く。
次フレンと目が合ったときはこれまでに無いくらいの至近距離でのぞき込まれていた。
「…ふ、フレン、さん…?」
「好きだよ」
「…は、はぃ……?」
「僕は君が好きだ」
「………フレン、さん……」
夢かな。
そんなことを思い自分の右頬をつねってみる。痛い。
確かにギリギリと頬をつまむこの痛みは現実ものだ。
「………僕も、」
「うん」
目の前がぐにゃりと歪む。涙だ。
嬉しくて嬉しくて、感情が止まらない。
「………僕も……、フレンさんが……」
重くて重くて引きずりっぱなしだったこの想い。
「好き」の言葉は青空に溶けるように甘く響いた。
end