捧げ物

□オレの恋人が風邪をひきました
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「クレス。なんか欲しいものは?腹は減ってないか?」

「うん、大丈夫だよ…。頼むからルークは大人しく座ってて…」

ベッドに横たわるクレスに何か自分が出来ることはないかと訊いてみる。
だけどさっきから返ってくる答えは同じ言葉。
一体オレはどうすりゃ良いんだ?



オレの恋人が風邪をひきました



「なぁ、オレ本当に何もしなくて大丈夫か?」

「うん、ほんっっっ………とうに大丈夫。
だから大人しくしていてくれないかな?」

うーんうーんと唸りながら苦しそうに息をはくクレス。
そんな姿を見せられたら何かしてやりたいと思うのだが、間違っているのだろうか。
一考に首を横に振るばかりで自分を頼りとしてくれない。

(そんなに頼りねぇかな…)

確かに剣の腕だってクレスから見たらまだまだだろうし、
精神的にも子どもかもしれない。
(いや、違う。コイツが大人っぽすぎるんだ)

とにかく、自分が目の前の恋人より劣っているのは事実だが
少しくらい頼ってくれたって良いじゃないかとルークは思う。

「まぁ、いいや。なんか食いもん買ってくる。
リクエストとかあるか」

「待ってルー…、ゴホッ、ゴホッ!」

「ほら病人は大人しく寝てろって」

ぐいっとクレスの頭を枕に押し込む。

そのままルークは買い出しに出掛けた。










「やっぱり熱でたときって冷たい物が良いのか?さっぱり分かんねえ」

生まれてこの方看病らしい看病は受けたことが無い。
よく七年間も無病息災で居られたものだ。

え、馬鹿は風邪ひかないって?知るかんなもん。

気を取り直してアイスクリームコーナーを見て回る。

「おや、ルークじゃないですか」

「ジェイド」

背後から聞き慣れた声。
其処には嫌みなロン毛男がいた。

「珍しいですね、貴方が街に降りてくるなんて」

「お前もな」

気にせずアイスクリーム選びを続ける。
ジェイドは楽しそうにその様子を見ていた。

「……なんだよ」

「いえ、ただ珍しいと思いまして」

「…………そういえばさ」

どうせなら訊いておこうと思い、口を開いた。

「熱がでたときってどういうもん食わせたらいいのかな」

「…まさか、'熱を下げるために冷たいアイスクリームを〜'とかじゃないですよね」

「な、なんで解ったんだ!?」

それを聞いてジェイドは頭を抱えた。

「まさかここまでとは…」

「どーゆー意味だよそれはっ!!」

震える拳を抑える。

落ち着けオレ落ち着けオレ落ち着けオレ!!!
クレスの為だ落ち着けオレ!!!!

「〜〜〜っ!!とにかく、教えてくれ!!頼む!」

「…まぁ良いでしょう。よく聞いて下さいね」










「暖かい物、暖かい物…」

ジェイドが教えてくれた事はルークの想像していたものとは真逆のものだった。

暖かくしてゆっくり休ませる。
これが看病の基本らしい。

お粥の材料を選び会計を済ませる。
一刻も早くクレスに食べさせようと店を出ようとしたときだ。

「ルーク」

「あ?」

「手っ取り早い風邪の治し方、教えましょうか」

にっこりと黒い笑顔。ルークの中の何かが危ないと警告を鳴らした。

「…要らない」

「まあまあ、そう言わずに」

どうあっても逃がさないつもりらしい。

「風邪はうつすと治るもんなんですよ」

「は?」

「鈍いですねぇ。キスの一つでもかましてやれって言ってるんですよん」

「はぁ!?」

予想外の言葉にすっとんきょうな声を上げる。

ジェイドはそれだけ言って帰ってしまった。

からかわれた。

やっぱりあいつに頼らなきゃ良かった。
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