捧げ物

□オレの恋人が風邪をひきました
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「ただいま〜」

返事が無い。
明かりも付けず薄暗い室内にクレスの寝息だけが聞こえた。

なるべく音をたてないように家に上がる。

「ただいま」

小さく声をかけ、顔を覗き込む。
すると額が汗でぐっしょりと濡れているのが見て取れた。

タオルを持ち出し丁寧に拭き取ってやる。

「…………んぅ」

「ぅおっ!」

とっさに口を手で覆う。
起きていないかと心配したが、どうやら大丈夫そうだ。

「………びっくりさせんなっつーの」

言いながらクレスのほっぺたをいじる。

ふと、ジェイドの言葉を思い出した。



風邪はうつすと治るもんなんです。



………イヤイヤイヤ。まさか真に受けるとか。



キスの一つでもかましてやれって言ってんですよん。



相手は寝てんだぞ?病人だぞ?

一人見えないジェイドと口論する。だが、風邪を治してやりたいのも事実で。

「…風邪、そうだ。風邪をうつすだけだ。別に、」

意識しなくて良いんだ。
する必要が無いんだ。

「…起きるなよ」

ぼそりと呟く。
それから徐々に唇をクレスのそれに近づけていった。

「……は、」

ふわっとクレスの吐息が掛かる。




熱い。







「……………クレス、」












あと、もう少し。






あと、もう少し。






あと、もう少「ふぁ?」






!?

喋った!?




「−−−るーく?…かお、ちかいよ」

「…あ、あぁ。わりぃ」













起きちゃいましたか。クレスさん。













ぐしぐしと目をこするクレス。
熱のせいかまだ頬は赤く、目覚めきれてない感じだ。

「帰ってたんだね。ルーク」

「ついさっきな」

ヤバいどうしょう。クレスの顔見れねぇ!!
絶対いま変な顔してるよオレ!

「ルーク?」

「…っ」

のぞき込んできたクレスから、ぷいと顔を逸らす。

「どうしたんだい。ボク、何かしたかな?」

「あ、いや。そうじゃなくて」

弁解をしようとふりむけばパチリと目が合った。
たちまち顔に熱が集まっていく。

「もしかして風邪うつったんじゃ…」

「あ−、違うって。…その、だな」

理由を説明しょうとするが言葉が出て来ない。

「その、クレスが、オレを頼ってくれないから
そんなに頼りねぇのかな…って」


とっさに口を付いた言い訳はかなり苦しいものだった。
なぜ自分はジェイドのように口が上手く廻らないのか。(だが、ジェイドのように成りたいとは思わない)

「ルーク…。違うんだ。それには理由があって」

「ん?」

困ったような表情で見つめてくる。
一体なにが違うのだろうか。

「ルークに動かないよう頼んでたのは、その、そばに、居て欲しかったからなんだ」

「へ?」

思いもよらない言葉にまたすっとんきょうな声が出た。
今日はエイプリルフールか何かか?

「……ごめん。看病しに来てくれたのに、座っててくれだなんて。イヤだったよね」

クレスは恥ずかしそうに布団を手繰り寄せる。

「イヤ、そんなことないって。
オレの方こそゴメンな?クレスの話し聞かずに此処離れちまった」

クレスの気持ちにも気付けず、出て行ってしまったことが申し訳ない。
本当に悪いのは自分なのだから。

「…ルーク、」

「なんだ?」

自己嫌悪に浸っているとクレスの声が聞こえた。
聞きやすいようにぐ、と口元に耳を近づけてやる。

「…風邪が治ったら、二人でどこか出掛けようか」

「−−ーあぁ、そうだな」


こうやって、あったかくオレを包み込んでくれる優しさが、




どうしようもなく愛しくて。




まだ熱い身体を力いっぱい抱きしめてやった。

























end


「……風邪うつるよ」
「良いよ、クレスが治るなら」
「ルークに風邪うつったら、さっきの話はおじゃんだね」
「それはヤダっ!!」
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