捧げ物

□二万打御礼アルジュ♀
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流石古都と言われるだけある。
少し路地に入れば如何にも日本的な建築物と街並み。
足を延ばせば世界遺産がそこかしこに点在している。
日本の文化をそのまま映したような都市・京都はあちこちでジュードの興味を惹いてやまないようだ。

さっきから俺はほっときっぱなしで右に行ったり左に行ったり記念撮影をしてみたり。その姿はまさしく観光客の鑑。
はしゃぐのも当然か、この旅行はジュードの大学合格を記念してのお祝いなのだから。

「…あーあ、もうあんなに遠くまで行っちゃって」

歩きやすいようにと選んだぺたんこのスニーカーはジュードの足取りをより一層軽くしている。

「ジュード。そんな走んなくたって寺は逃げねぇぜ?」

「え…?あ、あはは。ごめんアルヴィン、また置いてっちゃったね」

「お前無駄に足早いんだから少しは俺を気遣えよな」

「アルヴィンは無駄に脚長いんだから大丈夫でしょ?」

「長くてもお前のすばしっこさには勝てないってーの」

眉をハの字に下げて、困ったように笑うジュードの額を小突く。
あたっ、と小さな声が冬の白い息と一緒に吐き出された。

「…ま、ジュードの為の旅行だから好きなだけ見てくれて構わないんだけどな」

「ふふ、ありがと」

にこり、満面の笑みでまた駆けていく。
取り敢えず今は彼女に合わせて楽しい京都観光を満喫しておこうじゃないか。

「…うまく行くと良いけどな…」

彼女に聞こえないように呟いた言葉もまた、白い息と一緒に小さく吐き出されたのだった。



***



一日中歩き回った足が痛い。

ホテルでの夕食を済ませ、ようやくひと息つけると言いながらアルヴィンはベッドに横たわる。

僕も同じように自分のベッドに身体を沈ませて、悲鳴を上げる両足をのびのびとリラックスさせた。

「流石に1日歩くと疲れるね」

「ジュードがアレも見たいコレも見たいって言うからだろーが」

「アルヴィンが好きなだけ見て良いって言ったから、」

「だからって遠慮なしにも程があるだろ」

仰向けになって携帯をいじりながらアルヴィンが言う。
何故かその大きな手に触れたくなって、隣のベッドに忍び込む。

「なに?」

「なに見てるのかなって」

「知りたい?」

「教えたくないなら良いよ」

「素直じゃないねぇ、優等生は」

くく、と、いつもの低い笑い声で僕を笑う。
それから目の前に差し出されたのは、正方形の小さな箱だった。

「なに、これ」

「…ジュード」

箱に釘付けだった視線は呼ばれた名前に反応して無意識にアルヴィンの方に向く。
なんとなく何時もより真剣な表情に、ドキリと胸が鳴った。

「ジュード。…結婚、しよう」

「………は?」

「別に今すぐってんじゃない。大学を卒業してからでいい。ただ、早めに約束して置かないと俺がーーー」

「まっ、待ってよアルヴィン!取りあえず落ち着いてゆっくり話して。…ね?」

突然のプロポーズよりも急に早口になったアルヴィンに驚かされる。
さっきまでの笑顔はどこへやら。普段飄々とした態度の彼がこんなに取り乱すのは、本当に緊張している時だと僕には分かる。

後ろに流したチョコレート色の髪を撫でてあげると、アルヴィンはゆっくりと話し出した。

「…ジュードも、高校卒業して大学も決まった訳だし、そろそろ結婚とか…考えても良いかなっつーか…。こうやって約束でもしてないと、またお前のこと…裏切っちまいそうだから…」

あぁ、何だろうこの大人は。何時もは僕をからかってばかりの余裕を見せるって言うのに、今の彼は小さな子供のようだ。
のくせに平気で浮気もするし、何度も僕はそれに泣かされた。
それでもこうやって今一緒に居るのは、この軟派なヘタレが必ず僕の所に戻って来てくれたから。僕が彼を拒まなかったからだ。

「有り難う、アルヴィン」

「…ジュード」

「もう、そんな泣きそうな顔しないで。………結婚しよう、アルヴィン」

何時もアルヴィンがしてみせるように、安心させてくれる優しい笑顔を作る。
正直言うと僕も泣いてしまいそうだったから上手に笑えてるか分からないけど、アルヴィンは何も言わなかった。

左手の薬指に、箱から取り出された指輪がはめられる。

「……有り難う、ジュード…」



僕が大学を卒業するまで4年。


それまでしっかりとこの軟派男を捕まえておこう。



end
のん様へ、『アルジュ♀現代パロディで旅行に行きプロポーズ』。完成が遅れてしまい申し訳ありませんでした
ジュードくんを旅行に連れ出してカッコ良くプロポーズさせる筈が気がついたらただのヘタレヴィンに\(^ー^)/

アンケートにご協力頂き有り難う御座いました。
これからも当サイトを宜しくお願いしますm(_ _)m

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