捧げ物

□大丈夫?
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さっきから視界の端にちらっちら映る金髪。
船の食堂で甘い甘いミルクティーをすすって、またまた甘い甘い甘ーいピーチパイを口に運びながら、廊下を右往左往するその影を目で追う。
遠目だから分かりづらいが、おそらくまだこの船では見ない顔だ。

ティータイムを共にする俺の親友はその影にまだ気づいていないようで、イチゴを最後に取っといたショートケーキを美味しそうに頬ばっている。
なぁなぁ、と小声でフレンを呼び、口に運ぶフォークの動きを強制的に止めた。

「なんだい?」

「なぁ、お前アイツ知ってる?」

ちょいちょい、と此方に近づいてくる少女を指差す。
俺が誰を指しているか分かったのか、フレンは顔を真っ青にして立ち上がった。

「アイツ……って、ユーリ!!君は何て事を―――!!」

「あら、こんにちわ、フレン」

「え、あ、あぁ、こんにちわ、ナタリア様」

にこり、とさっきとは打って変わって優しい王子様スマイル。
様付けって事は、どっかのお偉いさんか何かか?

「ナタリア様、先ほどからお忙しそうでしたが―――」

「えぇ、なにしろやることが多くって。今休憩にお茶を淹れに来たんですの」

そう言いながらティーポットにお湯を注ぎ、少し待ってからコポコポとカップに紅茶を注ぐ彼女。
紅茶特有の良い香りが鼻をくすぐる。

しばらくして、淹れ終わったのかポットを片付け、此方を向いたその時だった。

「では、御機嫌よ――きゃあっ!!?」

「ナタリア様!!」

何につまづいたのか、ツルリと足を滑らせたのだ。
フレンの焦った声が耳に響く。

俺の身体も反射的に行動を起こしていた。

「―――っぶね!!」

とっさに伸ばした左手は彼女の肩に、右手は一瞬宙に浮きかけたティーカップに。
後ろから抱き留める形で最悪の事態は免れた。

しぃんと静まり返る食堂。
やがてピリピリとした緊張が溶け、ふぅ、と溜め息をひとつ吐く。

「………大丈夫?」

「は、はい。…すみません」

「ナタリア様、お怪我は」
「えぇ、ありませんわ。その、有り難う御座いました」

礼と一緒にぺこりと頭を下げられる。
その丁寧な振る舞いは何故かエステルを連想させた。

「あんたが無事なら構わねえよ。ほら、お茶」

「本当に申し訳ないですわ…。何より初対面の貴方の前でこんな恥ずかしい所を見せてまうなんて…」

「別に気にしないって。ほら、なんか向こうで呼んでない?」


遠くからナタリアー!!大丈夫かー!!何があったー!!と尋常じゃない声量で叫んでいるのが聞こえる。
ていうかこっちに近づいてきてる。
その鬼気迫る勢いに何となく身の危険を感じ、彼女の背中を押した。

失礼しました、と一礼してからパタパタと声の方へ走っていく後ろ姿を見送る。
また転びやしないかと心配したが、さっきの大声男、もといアッシュが居るから大丈夫か。

席に着きなおして、食べかけのピーチパイにフォークを突き立てる。
さっきまでお説教モードのフレンは何故か何も言わなかった。



end
マサキ様のユリナタイラスト「大丈夫?」を見て止まらなくなった妄想を具現化したものです\(^o^)/
マサキ様のみお持ち帰り可。

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