捧げ物

□刃より強い口づけで
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言いようのない不安感にどっと吹き出した冷や汗。
カタカタと震える手をしっかり握り締め、もう一度目を凝らす。

あぁ、やっぱりあそこに居るのは―――。

幾つもの死体の並ぶ戦場。
その中でも一際目立つ、剣を振り回す長い黒髪。
見覚えのあるその姿に、ナタリアはかくりと膝の力が抜けるのを感じた。



刃より強い口づけで



「どう、して…貴方が…」

鋭い金属音を響かせながらキムラスカ兵を次々に切り捨てて行くユーリの姿。
まるで裏切りでも起こしたように、誰かに操られれているかのように躊躇いなく斬り殺して行くその表情はどこか楽しそうにさえ見えた。

裏切られた?

まさか、そんな兆候彼には見られなかった。

ならばどうして―――。

ぐるぐると様々な憶測が頭をめぐる。
答えは出ない。

「―――ナタリア様!!お立ち下さい!!」

「……っ!!」

不意に飛び込んできた味方の声に目を覚ます。
そうだ、今は戦いの真っ最中なのだ。こんなところでぼーっとしていたらいつ討ち取られてもおかしくない。
しっかりしなければ、この国の王は私なのだから。

力の入らない足を奮い立たせ、やっとの思いで弓を構える。
目を閉じ、ゆっくりと深呼吸。
そして、

「―――はぁっ!!」

1人、2人、3人。

狙いを外さない鋭い矢が、確実に敵兵の数を減らしていく。
次々に赤い血飛沫が目の前を彩る。
もういったい何人殺したかも分からない。

「……最後ですわ!」

ナタリアの周囲に群がっていた先攻隊もあと1人。
いつの間にか味方の姿も見えなくなっていた。
きっとガイ達の応援に向かったのだろう。

よく狙いを定めて、矢を放とうとした瞬間だった。

「……ぐ…」

兵士の背から赤い飛沫。
どしゃっと倒れた兵士の背後には血にまみれたユーリの姿が見えた。

「よぉ、姫さん」

いつもと変わらない様子のユーリにゾクリと悪寒が走る。
まるで鬼のような、悪魔のような、明らかに異質な雰囲気を放つ男はゆっくりとナタリアに近づいた。
一歩一歩、静かに距離を縮めていく。

「……!!」

「……悪かったな、たくさん、殺しちまって」

目の前が真っ暗になる。
ユーリに抱きしめられたのだ。
血の匂いが、鼻孔をくすぐる。
どれだけ彼がキムラスカの兵を斬ったのか実感させられる程の匂い。

気の遠くなるような感覚を覚えながら、喉の奥から声を絞り出した。

「…どうして、寝返ったのですか」

「寝返った訳じゃない。俺は最初から帝国側の人間だったんだよ。」

「簡単に言うと潜入捜査、スパイだな。今日のこの時のためにずっとキムラスカの情報を集めてたんだ」

「そん、な…」

信じられない。
昨日までの彼は帝国の刺客だという事を悟られない為の嘘だったというのか。

裏切られた思いと受け入れがたい真実に軽くめまいが起きる。
許せない思いとその他諸々、色々な感情を込めてユーリの胸に拳を打ちつけた。
思ってるより手に力が入らなかった。

「そんな目で見んなよ。今日は伝えたい事があって此処に居るんだ」

「伝えたいこと…ですか?」

「今どうして俺がお前を抱きしめてるか、分かる?」

ぎゅうっと自分の身体に回る腕。
戦場のど真ん中で敵兵に身体を密着させるなんて、ましてや弓使いの自分にとっては危険極まりない行為だ。
危険性に気づくも、今更抵抗はしない。
血の匂いと反対に、ユーリの優しい温もりに身を預ける。

「……分かり、ません」

「ま、そうだよなぁ。……なぁ、ナタリア、お前に惚れちまったんだよ、俺」

「―――え?」

顔を上げた瞬間、奪われた唇。
ちゅぷちゅぷと粘着質な音を立てながら舌を吸われる感覚に頭が真っ白になる。

こんな状況下で、私はいったい―――。

「……はっ、ふ」

「………良い顔すんな」

「ゆー、り」

「此処でお前を討ち取って自分の手柄にするのも良い。が、残念ながら惚れた女を手にかけれるほど非情でもないんでね」


―――お前をさらう。



耳元で低くそう囁かれて、腰が砕けそうになる。

何も考えられなくなった頭に拒絶の言葉は浮かぶ筈もなかった。





end
我ながら酷い出来(^p^)
敵同士ユリナタということでどうしてもナタリア目線の文章になってしまいましたが、うん、読み辛い。

書き直しなら何時でも承りますが改善する気がしませんごめんなさい。
マサキ様のみお持ち帰り可です。

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