□快男児が往く!
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気は優しくて力持ち、を代名詞にしているだけあって、虎丸龍次という男は実に気風のいい男である。

面倒な買い出しの付き合いを頼んでも嫌な顔せず引き受けてくれるし、重たいものは当たり前のように持ってくれる。
「こんなもん鍛錬にもならんわい」と豪快に笑い飛ばしながら、米や味噌を軽々担いでのっしのっし商店街を闊歩する様は見ていてとても頼もしい。

虎丸には敵わないものの、こちらだってそこそこ鍛えているのだから任せてくれてもいいだろうに。そんなことを言ってみたこともあるのだが、それは彼曰く男としての股間にかかわるらしい。おそらく沽券の間違いだと思われるが、手伝ってもらっているのに訂正するのも申し訳ない気がしてそのままにしておいた。自分にできるのはせいぜい別の人間には言わないよう祈ることくらいである。


「おうおっちゃんうまそうだな。一つくれよ」

「ちょ、ちょっと虎丸!それは試食品じゃないから駄目だって!」


――ただ、店先から漂ういい匂いに惹かれるのか、鮮やかな手さばきで店先の品物を盗み食い……もといつまみ食いするのはとても悪い癖だと思う。ただでさえ雀の涙のような我々の食費だ、不用意に圧迫されると非常に困る。本人に悪意はないどころか無邪気そのものなのでたちが悪い。
しかし彼の人徳なのか、それとも天性の愛嬌ゆえか、金額をまけてもらったり試食という名目で少量譲ってもらったりということが多々あるのもまた事実である。今回も手に入れた試作品らしきせんべいを片手にご満悦といった様子だ。


「みょうじみょうじ、これわりといけるぞ。お前も一口食うか?」

「……虎丸って、本当に本能に忠実なんだから」

「欲しい物は欲しいと言え、ってなんかの歌詞にもあっただろうが。運がよきゃ得するかもしれんしな!」

「そういうのも虎丸のいいところではあるけど……少し不用意な行動を慎んでくれたらおかずも一品くらい増やせたり増やせなかったりするんだけどな……。
まあその話は後日ゆっくりするとして、今日はあらかたのもの買えたし帰ろうかとらま…………あれ? 虎丸?」





「婆ちゃんベッピンじゃのう、一瞬看板娘かと思ったぜ。出来れば50年前に会いたかったな!」

「とっ虎丸!あなたって人はまた!」


向かいにあった串団子屋、そこの主人らしき老婆の肩をぱしぱし叩いている虎丸を発見したなまえは大慌てでその場に駆け寄った。
その間に虎丸は老婆と一言二言話した後、にこにこと笑いながら焼きたての団子を二本受け取った。


「虎丸、また勝手にっ」

「買いもん終わったか? じゃあ団子でも食いながらゆっくり帰ろうぜ、ほれおまえの分」

「な、お、お金は」

「サービスしてやるってよ。道楽でやってるようなもんだから、美味そうに食べてくれりゃそれが一番だと。
気に入ったらまた買いに来てくれりゃいいって、気前いいよな」


また来るな、と虎丸が団子屋の老婆に手を振る。皺だらけのにこやかな笑顔に慌ててなまえも一礼しつつ、これでいいのかと自問自答しながらも、大股で歩く虎丸の後ろを追った。


「お、うまい。今度は金出して買うか」

「つくづくうらやましい性格してるわ……」

「お前も食えよ、まだあったけーぞ」

「……あ、ほんとだおいしい」

「な?」


綺麗に焦げ目のついた団子を齧ると、蜜の甘さと香ばしい風味がもちもちした食感とともに口内へ広がる。
こうして彼の恩恵にあずかることはたまにある。ちょっと嬉しい反面、どことなく後ろめたい味だ。
どうせ受け取るなら素直に受け取れたらいいのに、となまえは思う。虎丸のような天真爛漫さで。


「あと、かわいい彼女ね、だってよ」

「……もしかして私のこと?」

「お前じゃねえなら誰だよ。俺の後ろに背後霊でもいるってのか?
おっかねえこと言うなよな」

「そういうことじゃなくて……というか、ちゃんと訂正してくれたんでしょうね」

「まあまあ、細かいことはいいじゃねえか」

「細かくないでしょ」

「遅かれ早かれって所だろ、細かい細かい」

「……どどどどういう意味よ!」

「お、一口貰い」


串一本分をすっかり腹に収めた虎丸が、なまえが突き付けた団子にぱくりとかぶりついた。


「ああー! 私の分!」

「俺のおかげじゃろうが。細かいこと言うなよ」


俺は本能に忠実だって知っとるだろ、と虎丸が笑う。
陽光を思わせるその表情につい目を細めてしまったのは、きっと、眩しかったからというだけに違いない。





了.





虎丸は兄貴気質も末っ子気質も兼ね備えている感じがしていいなと思います。
近所の人たちともうまく交流してそうです。少年たちと遊んでやったりおじいちゃんおばあちゃんにかわいがられていてほしい。
リクエストありがとうございました!

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