□けものとけだもの
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※ご注意※
かっこいい桃も優しい桃もいません。
ちょっと下っぽい発言もしてます。お気をつけください。





「――やれやれ。ゴリラの次は女豹か」

「が……がおー……」

猛獣ひしめく深夜のサファリパークに、ひどく間抜けな雄叫びがこだました。



二号生筆頭代理江戸川――もとい無礼なゴリラをあっさり下した剣桃太郎は、道中手懐けた百獣の王に仲間を任せてパーク内を散策していた。
魍魎サバイバルと銘打たれた二号生による苛烈なシゴキも佳境を過ぎ、そろそろ空も白みかけてくる時間帯。

「……もう少し何とかならなかったのかよ」

四つん這いの体勢でがうがう叫ぶ、どこからどう見ても安っぽい着ぐるみの豹に桃はゆったりとした歩調で近付いた。
接近してくるとは思わなかったのか、豹の着ぐるみはひるんだように後ずさった。

「ぐ、ぐるるる」

「向こうで江戸川先輩を騙る不届きなゴリラをぶちのめしたんだが、お前もその口か?」

「がる…………えっ」

あからさまに硬直した相手に対しずかずかと距離を詰める。
ひえっ、と猛獣らしからぬ悲鳴。

二本足で立って逃げ出す前に、桃は豹もどきの首根っこを猫のように掴んで引きずり上げた。そのままもう一方の手で腰を抱く。

着ぐるみは思ったより薄くペラッとした生地で出来ていたらしく、中身のぬくもりも柔らかさもはっきり手のひらに伝わってきて、桃は不覚にも少しばかり動揺した。

だがそんなことを相手に気取られる男ではない。
端から見れば恋人を抱き締めているような体勢で、桃は恐らく耳のあるだろう場所に唇を寄せた。

「……男塾二号生ともあろう方々がこんな子供だましのような真似をするわけがないだろう?
先輩方を馬鹿にするならお前も痛い目に遭ってもらうが、どうする?」

「………………!!」

ぶんぶん、と焦ったように豹もどきが勢いよく首を振る。そんなに動かしたら頭が取れちまうぜ、と心の中で笑った。

「そうか。いい子だ」

「……ぐ、ぐうう」

呻いたのは豹の真似なのか、それとも素で零れたものなのか。何にせよマスクで隠れた表情は悔しげに歪められているのだろう。
想像したら尚更嗜虐心がわいて、桃は腰に置いた手をするりと滑らせた。

「ひゃ!?」

「……猫はここに触れられると喜ぶらしいが、豹もそうなのか?」

垂れた偽物の尻尾の付け根。つまり尾骨付近を指先ですりすりとさすると、笑いとも吐息とも取れる声がマスク越しに聞こえる。
つつ……と背筋を撫で上げれば、面白いほどびくんと仰け反った。

「フフ……いい子にはたっぷりご褒美をやらないとな」

「んふ、はぅ、やめっ」

くすぐったさに身じろぐ身体を腕一本で押さえつける。
薄い生地が肌に擦れるように弱い力でさすり、丸い尻にくるりと手を這わせる。触り心地からすると着ぐるみの下は制服ではなく下着のみのようだった。

「……くすぐったい、そこ……やめ、剣君っ……!」

「獣が喋るなよ」

「ひゃっ……!」

尻の谷間を布越しに滑り、内腿を撫でる。際どく敏感な隙間への愛撫にも近いくすぐりに、彼女が桃の腕に拘束されたまま身悶える。

「きゃ、ふっ……!やめ……なさ、私だから、みょうじなまえだから……ぁ!」

「よりによって俺のお慕いするみょうじ先輩を騙るとは……性悪な雌には褒美より仕置きが必要のようだな」

「何がお慕いするよ大嘘つきっ……!最初からぜんぶわかってるくせに、性悪はどっちよ!」

「…………」

無言で振り下ろした手のひらが、柔い尻で高らかに鳴った。ぎゃん、という情けない叫びに自然と唇が歪む。
ついつい繰り返し打ってしまうのも已む無しといったところである。

「ひぎっ!あぐっ!つ、つるぎく、待って……きゃう!」

「案外可愛い声出るんスね、みょうじ先輩」

「な、ふざけ……ゃうっ!ん、やぁっ!」

「……あんたまさか感じてるわけじゃねえよな」

「そんなわけあるかー!!」

離せ、離せ、ともがく彼女を意にも介さず、桃はなかなか肉付きのいいそこへもう一発お見舞いした。

「ぁんっ!」

「ケツ叩かれて喘ぐなよ。妙な気分になっちまうだろ」

「だからそんなわけ……ってどさくさで何を言って」

「抜く時に思い出して使わせてもらうかな」

「!?」

「今ここであんた自ら処理してくれてもいいんだが」

「!?!?!?」

本格的に危機感を覚えたのか、彼女の喉がひきつった悲鳴で震えた。

もう少し脅しておけば二度と自分に歯向かおうなんて気も無くなるだろうか。しかしそれはそれで残念な気もする。
せっかく苛めがいのある可愛らしい玩具なのだ。みすみす手放すのももったいない。

……もちろんそんな葛藤を知るよしもない彼女は、急に押し黙った桃により恐怖を抱いたのだろう。

全力で頭を振ってマスクをはずしたかと思うと、その耳にがぶりと噛みついた。

「っ」

少々虚を突かれた桃が力を弱める。もうこの瞬間しかないとばかりの必死さで桃から距離を取った彼女は、落ちたマスクをひっつかむと真っ赤に染まった涙目で桃をにらみつけた。

「……いて」

「鬼の二号を舐めるなよ、この桃野郎ー!覚えてろー!」

ばたばたと騒々しく、たまに足をもつれさせながら遠ざかる直立の豹に、桃は心底呆れたように笑いながら肩をすくめた。



「……むしろ忘れられた方がいいんじゃねえか、あんな醜態」



まあ頼まれても忘れてなどやらないが。

悲痛でいてほんのり甘ったるい声を思い返しながら、いっそ表情も一緒に楽しめばよかった、と桃は残念そうに指を鳴らした。








――その後、二号生専用バスの車内。

「え、江戸川さん!?」

「こ……こりゃあ本物のゴリラじゃあー!」

「そ、それなら江戸川さんは……!?」

「みょうじー!ふて寝しとらんでお前もなんとかせんかー!」

(こんな着ぐるみであいつが騙せるわけないじゃない……。
……お尻、痛くて熱いよぉ……。剣桃太郎め、いつかあの澄まし顔ぼろぼろにしてやるんだから……)

「いかん、運転席を乗っ取られたぞー!」

(……生きて帰れたらの話だけど)






――同時刻、サファリパーク内。

「桃、お前耳どうしたんだ?」

「ああ、これか?ちと豹に甘噛みされちまってな」

(あの桃が豹に……?)

(それ以前に歯形小さかねえか……?)

(というかどう見ても人間の噛み跡にしか見えねえんだが……)

「フッフフ。躾のしがいがあるってもんだぜ」





了.




人間出来てる完璧超人の桃も好きだけど、かなりいい性格してる初期の桃もいいよね。

という情熱だけで書いたらこんな惨事になりました。すみませんでした。

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