□デートはまだ始まらない
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「おうおう姉ちゃん。一人で突っ立ってどうしたい」

「寂しいんならワシらが遊んでやろうか?」

「……えっ」



いかにもゴロツキといった風情の男たちにいかにもな言葉をかけられて、壁を背に立っていたなまえはきょとんとした顔を上げた。

人通りの多い駅前、立ち止まる人はいない。みんな忙しなく、または関わり合いになることを避けるように足早に通りすぎていく。

しかしなまえはそれを気にすることもなく、彼らに怯えることもなく、ただふるふると首を横に振った。

「すみません。私、人を待っているので」

「なんだ、ダチと待ち合わせか?」

「こっちも二人じゃし丁度ええわ、まとめて可愛がってやるわい」

「あ、いえ、その……なんと言うか……」

「なんだ、コレかよ」

下卑た笑みで親指を立てるゴロツキに対し、なまえはのんきにも桃色の頬を恥じらいに染めてうつむいた。

「や、やだぁ。先輩と私は、まだそんな関係じゃ……」

「セイガクのくせに逢い引きか。生意気じゃのう」

「ちっちがいます、デートとかじゃなくて。
買い出しが大量で大変だってぽろっと言ったらじゃあ荷物持ち手伝ってやろうかって言ってくれたからお言葉に甘えただけでそれからご飯一緒に食べようってほんとそれだけで決してデートなんかではなくて」

「誰もそこまで聞いてねえよ」

「まあええわい。どうせ頭でっかちの青ビョータンみてえな軟弱野郎なんじゃろうが」

ぐい。なまえの胸ぐらを、趣味の悪いアクセサリーをじゃらじゃらつけた手が無遠慮に掴んだ。
近づいてくるにやけ面から距離を取りたくても後ろは壁である。困ったな、となまえは頬をかいた。
そろそろ先輩が来る頃なのに、妙な誤解されないかしら。

「そのセンパイとやらをボロ雑巾にされたくなきゃ、大人しくワシらに着いてくるんじゃな。へっへっへ……。
…………へ?」

「――な、なんだぁ!?」

悲鳴に近い叫び声を上げた次の瞬間、彼らは足をばたつかせながら、なんと空中に浮かんでいた。

何が起きているのかわからず地面を求めてもがく二人の背後、見慣れたいかつい巨体の主を視認したなまえはぱっとその顔に花を咲かせた。

「――独眼鉄先輩!」

「誰が軟弱野郎だって?」

太く盛り上がった両腕が彼らの首根っこを掴み、それなりに体格の悪くない成人男性二人を軽々と持ち上げている。
眉間に深く皺を寄せた独眼鉄は、鋭い片目でぎろりと男たちを睨み付けた。

「……俺の女に何か用かよ」

「ヒィッ」

「い、いえ、滅相も……」

その怪力と、堅気とは程遠いその相貌に真っ青になった男たちはすっかり戦意を喪失したらしい。
助けを乞う二人の頭は問答無用とばかりに打ち付けられ、ごちりと鈍い音が鳴った。

半ば意識を失った二人から手を離す。待望の地面に勢いよく落下した二人は、ひいひい騒ぎながら転がるようにその場を逃げだした。

それを目線だけで追っていた独眼鉄は、不機嫌そうなしかめっ面のままなまえに向き直った。

「――ったく。ボケッとしたツラしてっから狙われちまうんだよ、てめえは」

「……す、すみません」

「へらへら喋ってやってんじゃねえよ、図に乗るだろうが」

「はい、すみません…………あの」

「大体てめえには危機感ってもんが」

「独眼鉄先輩、あの」

すっかり上気した顔で、なまえが独眼鉄を見つめる。
熱に潤む瞳を上向け、あかい唇をうっすら開くと、なまえは陶然と呟いた。



「『俺の女』から話がまったく耳に入ってこないので、落ち着くまで少しだけ待ってもらっていいですか?」

「…………!!」



その後、通行人の『少女が柄の悪い大男に絡まれている』という通報を受けた警察が現場に到着するまで、赤くなったふたりの長い長い沈黙は続いた。



了.



その後警察の誤解を解くのに小一時間。




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