□charm
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「先輩はどっちがいいと思います?」



――女が提示する二者択一は嫌いだ。

どうせこちらの意見など大して意に介さない癖に、おざなりな返答をすると臍を曲げる。
決まっている自分の意見に賛同してほしいだけなのだ。

……まあ、実際経験したことはないがそういうものだと聞いている。
初めての事態に少しばかり動揺しながらも、なんとかいつもの調子で「どっちでもいい」と彼は言い捨てた。

彼女はえー、と不満げな声を漏らして、両手にぶら下げた衣服を交互に眺めた。

「先輩の好みはどっちなのか聞きたいんです」

「……俺が着るのか?」

「そういう意味じゃありませんよ。……えっ、まさかそんなご趣味が」

「あるか!」

彼女は結局両方をラックに収めると、ふうとため息をついた。

「ようするに私の着衣には興味無い、と」

「好きにすればいいだろう。俺が口を出すことでもあるまい」

「そう言われればそうですけど、せっかく買って下さるそうなので先輩の好みに添おうかと……。
……あ、じゃあこっちの方が、先輩には重要ですか?」

どこか含みのある笑いをして、彼女は疑問符を掲げている彼の手を引いた。





「これとかどうですか。あと、これとか。ちょっと派手ですかね」

「……あ、のな」

ごそごそと気ままに物色する彼女から目を逸らしながら――いや、そのレースとフリルにまみれた小さい布の空間から目を逸らしながら、彼は呻くように言った。

「どうしたんですか。先輩、こういう可愛いのは苦手ですか?
それならこっちの黒とかなかなかせくしーですけど」

「そ、そういうものこそ、お前の勝手にすればいいだろうが!」

「でも先輩、脱がさないで中途半端にずらすの好きじゃないですか。意見を言う価値はあると思いますけど」

「んなっ……」

「このピンクの可愛いですね。こっちの水色もきれい。苺柄は子供っぽいかな……。
ほら、先輩どう思います?」

「………」

こいつは、何がそんなに楽しいのだろうか。
あーだこーだ言いつつ衣服を選んでいることか。
それとも、俺を追い詰めて困らせていることか。
にこにこと満面の笑みを浮かべるなまえに、蝙翔鬼は半ば自棄のような心境になっていた。

「……め」

「え?」

彼がぼそ、と呟いた言葉が聞き取れなくて、彼女は振り向いて聞き返した。

「……右から二番目」

彼女は無言でひょいとハンガーを持ち上げるとそれを一瞥し、すこし目を見張った後、かごの中に放った。

「……なかなかいいご趣味ですね」

「お前が言えって言ったんだろうが!」

「ふふ、いいですよ。先輩のご趣味なら、そのとおりに。
あ、あとストッキングもいいですか? 安いのでいいですから」

「もうさっさと買ってこい! 高かろうが何でもいいから!」

「えー。高いのだともったいないですよ」

すい、と彼女が彼の腕をとった。そして、自分よりだいぶ上背のある彼の耳元で、

「……だって先輩、すぐ破っちゃうでしょ?」

「………」

「なあ」

「はい」

「誘ってるのか?」

「どう思います?」

「覚悟しておけよ」

「ふふ」

ぎゅ、と絡めた腕に力を込めて、彼女は至極幸せそうに笑った。

「はい、先輩」



了.





このあと滅茶苦茶(ry



 

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