□無数の角で円になる
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「おい蝙翔鬼、てめえ肉ばっか食うなよ。野菜も食え野菜も」

「はぁ?提供者に向かって何だその口の聞き方は」

「……つかぬことを伺いますが蝙翔鬼、何肉ですかこれは」

「天稟肉」

「撃ち落とされる前の名称を聞いているのですが。まさか野鳥ではないでしょうね」

「最高の宮廷料理として珍重されていたんだぞ」

「だから何肉だと聞いているだろうが」

「そうカッカすんなよディーノ。旨けりゃ俺ぁ何でもいいぞ」

──正方形のちんまりとした炬燵に似つかわしくない屈強な身体を押し込んで、元鎮守直廊番人の三名は鍋を囲んでいた。

肉だの野菜だのを適当に放り込んで煮込んだそれをつつきながら、まだ飲んでもいないのにあーでもないこーでもないと管を巻く。

「私は繊細でデリケートなのですよ。泥水でも啜れる野蛮なあなた方とは違ってね」

「一皮剥いたらただのチンピラの癖によく言うぜ」

「それほど出所が気になるのなら、今度はお前の死穿鳥を最高級鳥肉に変えてやろう」

「……ところで蝙蝠の丸焼きとは美味なのでしょうかねえ」

「良かったな友たちよ。
今日は久々に人間の生き血を吸わせてやれるようだ」

湯気越しに殺気立つふたりを余所に、独眼鉄はぱくぱくと天稟肉を腹に納めていく。
この程度は諍いにも入らない。ただの日常会話だ。

「……あ、独眼鉄!汚いぞ貴様!」

「うるせえな、メシくらい大人しく食えよ。
おら春菊やっから」

「いらん!」

「いい歳して好き嫌いすんなよ。偏食は良くねえぞ」

「偏食鬼ですか」

「いい歳してくだらんことを言っとるんじゃない!」

「むしろ今のはおっさんの証明じゃねえのか?」

「はん。ディーノが初老じみてるのは昔からだがな」

「このガキャアよっぽど命いらんらしいな」

「お前らやりあうのは構わねえが、鍋には被害与えんなよ」



──……ぴんぽーん。

ついに両者が獲物を抜き、そろそろ今回も血を見るかというタイミングで玄関のチャイムが鳴った。

ドアの向こうの人物が誰なのか三人には見当がついているからだろうか、その響きは彼女と同じくどこか間が抜けているような気がした。



「……おや、コンパニオンがいらっしゃいましたかね」

「小間使いが一番遅いとはどういうことだ?」

「お前ら揃って後輩を何扱いしてんだよ。ちったあ可愛がれよ」

「私はいつだってストレートな愛情表現をしているつもりなのですがねえ」

「俺に忠誠を誓い何でも言うことを聞くというなら可愛がってやらんこともないが」

「……俺だけは妹分だと思ってやるからよ、みょうじ」

ぴんぽんぴんぽん。
なかなか返事がないことに困惑したか、チャイムが再び鳴る。
悪い悪い、と独り言のように言って独眼鉄はやっと炬燵から立ち上がると玄関に向かった。

背後ではまだぎゃあぎゃあと仲睦まじく喧嘩をしている声がする。
がしゃん、と何かが倒れる音がした。どうやらみょうじの最初の仕事は決まったようだ。
ハの字眉で床を拭いているみょうじを想像して、独眼鉄の六分目ほど溜まった腹の底から笑いが込み上げた。

……なんら変わらぬ騒がしく馬鹿らしい関係に、乾杯でもするか。

寒空の下、追加の具材と酒を抱えて震えているだろう後輩を迎えに、独眼鉄は歩みを進めた。







──日本酒とトマトジュースとシャンピニオン・スペチアーレの白15年物買ってきましたよ!

──おお、ありがとうな、みょうじ

──御礼は熱いヴェーゼでよろしいですか?

──無塩にしろと言っただろうが!もう一度買ってこい!





了.


原作での鎮守三人の絡みってあまりないですけど、個人的には仲良く喧嘩しててほしい。
あと搴兜稜萃に丸焼きにされた蝙蝠も王大人の医術で治っててほしい。


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