□SS/過去拍手
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(ヨーコ)
※どう説明したらいいのかわからないのですが恐らく閲覧注意物件じゃないかと思いますごめんなさい



「彼と付き合うことになったの」と、きれいな薄桃色の頬でほほ笑む幼馴染兼友人の隣には、私の想い人がいた。

……想い人と言ったら少し大げさだろうか?実際には、気になっていた人、ちょっといいなと思っていた人、くらいが正しいのかもしれない。

だって私は「そうなんだ、知らなかった。おめでとう」なんて当たり障りのない言葉を吐きながら、幸せそうな二人に笑い返せたのだもの。
この心も、いっそ不思議なほどに凪いでいる。動揺も、困惑も、衝撃も。何も感じない。まるで麻痺してしまったかのように。

「よかったね、ヨーコ」

「ありがとう、なまえちゃん」

小首をこてん、と傾けて、彼に寄り添うヨーコの柔らかな栗毛が空気を含みさらりと揺れる。
ふと鼻腔をくすぐる甘い香り。シャンプーか香水か、それともお化粧品の匂いか。たまにこっそり鞄へ忍ばせているお菓子の匂いかもしれない。疎い私にはよくわからないけれど、さりげなく香るそれは彼女にとても似合っていた。
ほんの少し焦がした砂糖菓子のような、カラメルシロップのような、甘ったるくく仄苦い香り。

女の子は砂糖とスパイス、それと素敵な何かでできている――そんな外国の詩が脳裏によぎる。彼女に限れば、それは紛れもない真実のように思えた。



――仕方ないことなのだ。
みんなヨーコのことが好きになる。小さい時からずっとそうだった。可愛くて、あどけなくて、ほんの少しだけあざとい――花から花へ舞う蝶のようにふわふわ、ふらふらと、どこかつかみどころのない彼女を捕まえて抱きしめたいと。
男の人ならきっと、みんなそう思うのだ。

(何度めの失恋だっけ、これ)

そんなみじめなカウントは、頭の中で片手の指を折りきったところで諦めた。きっとすべては思い出せないだろうし、思い出したいものでもない。
ヨーコに聞けばわかるかしら。――「あなた、それで何人目の彼氏なの」って。
いいえ、きっとヨーコは言うだろう。にっこり笑って「うーん、わかんない」と。

ひどいおんなのこ。
でも、彼女にはそれが許される。きっと私は何回でも、何十回でも、許してしまうのだ。
甘えと愛嬌をたっぷり含んだ、彼女の小悪魔の眼差しに。




「よかったね、ヨーコ」

そうやって笑うなまえちゃんは、とてもはかなげでかわいらしいの。
ほんとうは言いたいことがたくさんあるんだろうに、何もかも飲み込んで、つぐんだ口をきれいにゆがめて。わたしに笑いかけるの。

――隣にいる彼のことを、なまえちゃんが好きだってことは知ってた。
だから興味を持った。小さい時からずっとそうだった。
なまえちゃんが気になる男の子は、わたしのタイプとどんなにかけ離れていても、わたしの気になる男の子になった。

女の友情はハムより薄い――なんてセリフ、どこかの恋愛ドラマでも言ってたじゃない。
もし誰かとなまえちゃんが上手くいって、なまえちゃんがわたしより彼氏の方を優先することになったら……ああ、そんなの考えただけで耐えられない。
なまえちゃんに、わたし以外の大事な誰かができるなんて、許せない。

わたしだったら誰と付き合っていても、どんな時でも、なまえちゃんを優先できるから。
なまえちゃんの好きな人を取ってしまっても、優しいなまえちゃんが何も言わず許してくれること、知ってるから。
だから、このばかみたいなサイクルを、これからも続けましょうよ。

わたしはわがままでよくばりかもしれない。
でもそれって可愛い女の子の特権でしょう。そう言っても、なまえちゃんが仕方ないなって笑ってくれることも知ってるのよ。

なまえちゃんの我慢が限界を迎えるか、わたしの罪悪感がこの胸で爆ぜるか、どちらが先かはわからないけど。
それまでは、この腕の中に何もかもを抱き締めていたいの。

素敵な男の子も、大好きな親友も、誰にも渡さない。
わたしだけ。――わたしだけの、ものよ。




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