□SS/過去拍手
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(泊鳳)



「泊鳳はあったかいね」と布団の中でみょうじが言った。
その後「子供は体温高いっていうものね」と続けられて臍を曲げたことも気づかず、みょうじはこちらをぎゅうと抱きしめてきた。
ひやっこい脚が脛に絡みついてきてぞわっとする。この感覚にはいまだ慣れていなかった。

これは女にありがちな冷え性というやつか。それとも、湯上り後すぐに布団に入らず遊んでいたせいで湯冷めするんだろうか。後者だとしたら巻き添えを食らっている上体温まで奪われるこちらが哀れすぎる。

「あぁあったかい……生き返る」

「あのなあ、わしゃお前の湯たんぽじゃないんじゃぞ。いつもいつも寝床に引きずり込みよって」

非難を聞いているのかいないのか、餅のような頬っぺたがむにむにと頬ずりをしてきた。
こっちもちと冷たいが、やたらカッカしている顔には心地いい。何故熱いのかなんてこいつは考えもしないのだろうけど。

「今だけ、今だけでいいから……泊鳳がもう少し大きくなったらやめるから……はふー」

「ったく……」



――こういう時、子供は得なんて嘘っぱちだと痛感する。
いろこいの対象にすらなれないまま、安心しきった顔でぺたぺたと触られたって意味がない。何も嬉しくない。……ほんの少ししか嬉しくない。
それでも今日もこの女を温めてやる自分は涙が出るほど健気だ。我ながら今のままでも十分にいい男だと思うのだが、どうしてこいつにはそれがわからんのだろう。
手を出そうとすれば出せる状況下で、まだ何も知らない子供のふりをするのもなかなかつらいんだぞ。

「すぐに大きくなってやる。その時は覚えとれよ」

その言葉の真意も理解できない鈍感女は、寂しいこと言うのね、と拗ねたようにつぶやいて腕の力を強めた。
今日もしばらく眠れなさそうだ。




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