□SS/過去拍手
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(独眼鉄)



かっとなるともう己では止められぬ暴力性は幼い頃からの悪癖だった。

生まれつき体躯に恵まれたことも災いしたのだろう。気付けばガキ大将、不良、どうしようもないゴンダクレと呼ばれ――やがて、彼の周囲に近付く者はいなくなった。
ついには血を分けた親にすら見放されて辿り着いた場所は、そんな男に似合いの地獄だった。

その場所で彼は初めて肩を並べられる仲間を知り、自分では決して敵わぬ存在を知った。絶対的な敗北は苦く、そしてそれ以上に胸のすく思いがした。

狂気に満ちた地獄の中でかけがえのない友に囲まれながら、独眼鉄はようやく、自らの居場所を見つけ出していた。





「――男って何ですか?」

普段は問答を仕掛ける側だからだろうか。それともらしからぬ追憶に浸っていたからだろうか。
些か唐突な彼女の質問に、独眼鉄は鋭い片目を見開いた。

「先輩にとっての答えは、何ですか?」

柔らかな声は無邪気に問い掛ける。期待にきらきらする目が、まっすぐこちらを見つめている。
しばし押し黙ったまま、独眼鉄はじいっと待つ彼女の瞳を静かに見つめ返しながら考えた。



独眼鉄の短気は治ったわけではなく、苛烈な暴力性も少々潜んでいるだけで常に存在している。
きっかけさえあれば今すぐにでも何かを、誰かを、傷つけてしまう可能性がある。
そんな自分に出せる答えは何なのだろう。



男とは何ぞや。命とはなんぞや。
繰り返し繰り返し投げ掛けた言葉。

――問い掛けている先は、もしかしたら自分自身なのかもしれない、とふと思う。

今の自分の行いは正しいのか、男として胸を張れるものなのか。
今もなお短気で短慮なままの己に問い掛け、考えて、その都度答えを出していくものなのではないだろうかと。



「……取り敢えず」

「はい」

「てめえを守る、ってのも正解ではあるだろうよ」

「えっ」

そそそんな甘言にはぐらかされてあげませんよ、そっちが卒業したってこっちはまだ塾生なんだから、色なし恋なし情けありなんだから、とわめく彼女に独眼鉄はからからと笑い、その真っ赤な頬へ武骨な手を添わせた。



「……なんだろうなあ」

「せせっ先輩?熱でもあるんですか?」

「そりゃおめえだろ」



とにもかくにも、守り抜いてみようと思うのだ。
己の命あるかぎり――いま目の前に居る、この新たな居場所を。



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