□SS/過去拍手
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(伊達臣人、卒業後)



いわゆるヤクザ、もしくは極道。
そう呼ばれている人種がどうやって生計を立てているのか、私はいまいちよくわからない。
大方褒められたことはしていないだろう、という程度のふわふわとした悪印象と、テキ屋はどうもヤクザがやっているらしいという曖昧な知識を持ち合わせているくらいだ。

だから伊達がそういう道に進むと告げてきた時、屋台のたこ焼きを千峰塵でひっくり返す彼の姿を想像してしまった私は口に含んでいたお茶を噴き出しかけた。
いつもよりちょっとだけ真面目なトーンで話していた彼には悪いことをしたと思う。



――そう、いいんじゃない、何かできることあったら言って。

確か私はそんなことを言ったような気がする。
元々堅気の職に彼が就くことなど微塵も考えていなかったし、未だ彼の傍に付き従う三面拳の存在もあって、私は特に不安も不満も抱くことなくそれを受け入れた。

でも一番の理由は多分、彼自身の美学を信頼していたからだ。例えどんな道を往こうとも筋の通らない格好悪い行いをする男じゃない、そういう確信が、共に過ごした時間の中で胸にしっかりと根を張っていたからだ。
だけど照れ臭かったからそこらへんの心情は省略した。

伊達は虚を突かれたような顔でしばらく押し黙った後、


「肝が座っていやがるのか何も考えちゃいないのか、まあ後者だろうがよ」


なんて失礼なことを言って、愉快そうに口の端を歪めた。
若干むっとしないでもなかったが、その後一瞬だけ抱き寄せられて機嫌の直る私も相当単純な女である。



万一にも伊達がたこ焼きを売る機会に恵まれた時は、私は隣でりんご飴でも売ってやろう。
その光景を想像し、私は今度こそ小さく噴き出した。



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