□SS/過去拍手
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(東郷総司)



たった一学年の差がこんなに遠いものだとは思ってもみなかった。



彼女が何を経験し、同輩連中と共有してきたのかを俺は知らない。時にぶつかり、時に支えて。幾度の苦難や死地を乗り越えて笑い合ったのかなど知る由もない。

俺が知っているのは二号生のみょうじなまえだけだ。
女のくせに男塾に在籍し、世話を焼きやがるお節介でお人好しな奴。
仲間とも思うことも、先輩として尊敬の念を抱くこともできない。

……一号生時代を共に過ごしていたなら、この印象はまるで違っていたのだろうか。



だが今さら自分の認識を改めようとは思わない。
例え彼女が男と肩を並べ勇ましく戦場に出るような人間だったとしても、俺はそんな姿に興味などさらさらない。



「……と……東郷君……?
やめ……て、何、するの……っ」

恐怖に震える声。
いつもより潤んで揺らぐ視線が、一直線にこちらを見据えている。

心地いい、と思った自分にヘドが出る。
だが誰にでも振り撒ける笑顔より、その怯えきった表情はよほど魅力的に映った。

「先輩」

「離して、……いや!」

「――――なまえ」

あいつらには見せていない表情が見たい。
あいつらの知らない、みょうじなまえが知りたい。



俺だけのお前が、ほしい。



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