□SS/過去拍手
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(泊鳳)


「中国にも七夕はあるんじゃぞ」

星を見上げる私の横で、泊鳳はぽつりとそう言った。

「笹を飾ったり願い事したりはせんがのう」

「へえ、そうなんだ。どういうお祭りなの?」

「男女がいちゃつく日」

「なんか身も蓋もない言い方!」

あっけらかんと言い放った泊鳳は、しかしその通りなんじゃぞ、とからから笑った。

「あとは女に花とかプレゼントを贈る日じゃな。
山艶あんちゃんなんかはマメに贈り物しとったわ。情人の人数分きっちりな」

「お、おお、色男……!
……でも確かに、離ればなれの恋人が年に一回会える日だもんね。
恋人同士の祭典でも当然か」

「わしゃあ願い事が叶う日の方がええのう。好いた惚れたはようわからん」

「ふふー。そのうちわかるんじゃない、泊鳳にも」

「なんじゃい大人ぶって」

そういうお前はわかるのか、と拗ねた顔をする泊鳳がかわいらしかったので、私はまあねとさらにお姉さんぶってみた。

「私だって、色恋のひとつやふたつくらいはね」

「……………………ふうん」

「なによその目は」

「どっからどう見てもネンネにしか見えねえ小娘が見栄はってら、って目じゃ」

「なんだとー!」

その赤くて丸いほっぺをつついてやる、と突き出した指はあっさりかわされ逆に腕を固められた。

さすが小さくても梁山泊首領、と思っている間にも固められた腕がかなり本格的な悲鳴をあげていて、痛い痛いいたたたたたた。

「いたたた、やめ、やめて泊鳳いたいー」

「嘘ついてごめんなさい、は?」

「ごめんなさい嘘つきました泊鳳様の仰るとおりです、ごめんなさいぃ」

「よしよし。素直なイイ子にはご褒美をやるぞね」

ぐむ、と何かが口に押し込まれた。目を白黒させながら咀嚼すると、ドーナツのような風味が口内に広がる。
索餅じゃ、と愉快そうな囁きが耳元で聞こえてびくりとした。



「来年までイイ子にしてたら、今度はもっといいもん贈ってやるぞ?」

「…………っ」





――前略、織姫様、彦星様。
どうかこの小さな暴君から、私をお守りくださいませ。



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