□SS/過去拍手
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(男爵ディーノ)



彼女の無垢な生首に、かさつく指の腹をするりと滑らせた。

額にかかる前髪をそっと払う。生気のない真白の膚はなめらかで、冷たく硬い。

くろぐろと影落ちる虚ろな瞳はどこを見ているのだろう。どうにか視線を交わしたいと彼女の頭をあちこちに動かしたが、ぼんやりとしたまま焦点を合わせない彼女はのらりくらりとこちらの眼差しをかわしてしまう。それがたまらなくもどかしかった。

他の部分より赤みが目立つ唇は、薄く開いてとろりと艶めいている。彼女がごくたまにつけていた紅を塗ってやったせいだろうが、其処だけはまるで生きているようだった。
今にも甘い吐息をつきそうな、名前を呼んでくれそうな、そんな錯覚さえ覚えた。

後頭部へ回した指に細い髪を通し、頬を包んで、その唇に衝動的なくちづけを落とした。
そこはやはり硬くて、切ないほどに冷えきっていた。







「…………何してるんですかディーノ先輩」

「ああ、君ですか。
どうですこれ、良くできているでしょう?」

「見せないでください悪趣味です」

「君の顔の造形が?」

「はぁ!?
ひ、人の生首を蝋で勝手に製作することが、です!
し、しかも今、キ、キス……」

「やはり口は開けて舌まで作るべきでしたな。これではフェザーキスが限界だ」

「それ以上何をする気なんですか!駄目ですこんなもの没収です、どろどろに溶かしてお洒落なアロマキャンドルにでも変えてやります!」

「混ぜ物をしておりますので蝋燭として使うのは難があるかと……」

「ええいうるさいとにかくこんなものは没収なんです!何に使われるかわかったもんじゃない!」

「やれやれ」



「……それとそこにある私の口紅も返してください。いつ盗んだんですか」

「…………………………チッ」



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