□SS/過去拍手
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(蝙翔鬼)
※暴力描写注意



ぱきん。

「う、ぐぁっ!」

ぱきん。

「あ゛ぁっ、やめ、せんぱっ……」

ぱきん。

「いたい、やめて、指がっ……私の、ゆび……」

ぱきん。

「うあ゛ぁあっ……!!」

「……落ち着け」

背後で拘束された手が優しくさすられる。慈しみを秘めた動作にすら痛みが誘発されて、苦悶の呻きが食いしばった唇から漏れた。

「貴様には不要なものだ。少しだけ我慢していろ」

小枝でも折るようなあっけなさで激痛をもたらしながら、淡々と宥める声音に鳥肌が立つ。

正しいのは自分で、困った利かん坊なのは私。そう言いたげな口調で彼は私に囁く。
暗く穏やかな瞳を細めて、笑う。

「利き手の親指と人差し指は残すのが習わしだが……食事の世話も俺がしてやるから要らぬか。折っておくぞ」

ぱきん。ぱきん。

「ぁがっ……ぁあっ……!やめて、助けて、誰かぁっ……!」

「……ほら、すぐそうして俺以外の人間にすがるだろう。
誰にでも伸ばす指など使えぬようにしなければ、悪い虫が付いてからでは遅い」

ぱきん、ぱきん、ぱきん。

「うぁあっ!ひぃ、あっ!
……た……すけて、おねが……!!」



「……お前に必要なのは、この一本だけだ」



折れ曲がって、ねじくれて、鬱血して。
彼の心とおそろいの、おぞましいわたしのゆび。



その中で唯一、健やかに伸びることを許された左手の薬指に填められる、うつくしい銀の枷。

陶酔の笑みを浮かべる彼が、痛みに白む意識の向こうに消えた。



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