魁
□SS/過去拍手
16ページ/58ページ
(蝙翔鬼)
※暴力描写注意
ぱきん。
「う、ぐぁっ!」
ぱきん。
「あ゛ぁっ、やめ、せんぱっ……」
ぱきん。
「いたい、やめて、指がっ……私の、ゆび……」
ぱきん。
「うあ゛ぁあっ……!!」
「……落ち着け」
背後で拘束された手が優しくさすられる。慈しみを秘めた動作にすら痛みが誘発されて、苦悶の呻きが食いしばった唇から漏れた。
「貴様には不要なものだ。少しだけ我慢していろ」
小枝でも折るようなあっけなさで激痛をもたらしながら、淡々と宥める声音に鳥肌が立つ。
正しいのは自分で、困った利かん坊なのは私。そう言いたげな口調で彼は私に囁く。
暗く穏やかな瞳を細めて、笑う。
「利き手の親指と人差し指は残すのが習わしだが……食事の世話も俺がしてやるから要らぬか。折っておくぞ」
ぱきん。ぱきん。
「ぁがっ……ぁあっ……!やめて、助けて、誰かぁっ……!」
「……ほら、すぐそうして俺以外の人間にすがるだろう。
誰にでも伸ばす指など使えぬようにしなければ、悪い虫が付いてからでは遅い」
ぱきん、ぱきん、ぱきん。
「うぁあっ!ひぃ、あっ!
……た……すけて、おねが……!!」
「……お前に必要なのは、この一本だけだ」
折れ曲がって、ねじくれて、鬱血して。
彼の心とおそろいの、おぞましいわたしのゆび。
その中で唯一、健やかに伸びることを許された左手の薬指に填められる、うつくしい銀の枷。
陶酔の笑みを浮かべる彼が、痛みに白む意識の向こうに消えた。
.