□SS/過去拍手
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(東郷総司)
※R-15



みょうじ先輩、と呼べば彼女は困ったような顔をして笑った。

「……こんな時くらい、なまえって呼んで」

蠱惑的に震える唇に視線が絡め取られる。
寝台の上、女らしい丸みを帯びた身体は柔らかな月の光だけを纏って横たわっていた。

なまえ、そう呟いた俺の声はみっともなくかすれていたと思う。

彼女はうっすら頬を染め、学帽を脱いだ俺の頭を「よくできました」と撫でた。
その手はしばらく固い髪を弄んだ後、俺の手を取って自らのふくらみに導いた。

「……先輩」

「呼び方、戻ってる……」

「っ、なまえ」

拗ねた口調がたまらなくいとおしくて、名前を呼ぶのと同時に唇を奪った。
柔らかいそれに夢中で押し当てたり吸い付いたりしていると、彼女は苦しげに身悶えた。

「あ、わ、悪い……」

「はぁっ……東郷君、激しい……」

酸素を求めて開く、赤く潤んだ唇。
かぼそくなった理性ではもう抑えきれず、俺は再びついばむような口付けを落とした。

ふくらみに置きっぱなしだった手のひらをやわやわと動かす。初めて触れた女の肌は、信じられないくらいに滑らかだった。

女というものは皆そうなのだろうか。それとも、彼女だからこんなにも心地好く手のひらに吸い付くのだろうか。

「……東郷、君……ぁっ」

「あんたも、名前で呼べよ……」

「そ、……総司、君」

「なまえ……」

「総司くん……っ」

無我夢中で身体をまさぐる。きっと稚拙な愛撫だろうに、彼女はそれでも甘い声を返してくれた。

きもちいいよ、どうしよう、と言われて自分の方がどうしようもなくなる。

背中に回された細い腕にぎゅうっと力が籠った。不意の動きにバランスを崩した俺は、彼女に全身でのしかかってしまった。

……はっきりと反応を示している熱い昂りを押し付ける形になってしまい、かぁっと顔に血が上る。

「あ……」

「っ、悪い!」

咄嗟に引き離そうと浮かせた腰が、意に反して引き寄せられる。
それが彼女の両足による拘束だと気付くのにそう時間はかからなかった。

「お、おい……っ」

「……いい、よ」

「な……」

「これ、つらいんでしょ……いいよ」



――いれて、総司君。
私も総司君がほしい。



理性を断ち切る強烈な囁きが脳髄を揺らして、思考を真っ白に塗り替えた。









「あ――おはよう、東郷君」

「……ッス」

「あれ、なんか具合悪い?元気ないような……顔も疲れてるし」

「……いや、別に……」

「夢見でも悪かった?」

「……………………急いでるんで」

「え、ああ、ごめん……」

いつも以上の素っ気なさで通り過ぎる東郷の背を見送りながら、なまえはうーんと首を捻った。



「……どうしたんだろ。
たまにああなるのよね、東郷君って」



(あんな夢見ちまって、どう顔合わせろってんだよ……。
……くそっ、これで何度目だ?)



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