□SS/過去拍手
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(蝙翔鬼)

いつ頃からこんな関係を続けているのか、なまえ自身にも定かではない。
なまえはそもそも異性に対して免疫がある方ではなく、むしろその逆だった。
箱入りとはいかないまでも奔放とも程遠く、一定以上の距離を保って接してきた、はずだった。




――いつからこんな関係になってしまったんだろう。

寝込みに唇を奪われた時だろうか。
目覚めた私を、苦しそうに見つめていたあの人を目に映した時だろうか。
もう一度落ちてきたその唇を、受け入れてしまった時だろうか。

身を任せたばかりのシーツはまだ冷たい。その冷たさを湯上りの素肌で感じながら、なまえは長く息を吐いた。



『今夜、待っている』



すれ違いざまに囁かれるその一言で、彼となまえはつながっている。
愛の言葉を囁かれた覚えはない。
行為中でさえ、彼は身体の昂りのままに甘ったるい睦言を紡ぐことはないのだ。

――昼でも薄暗いこの部屋は、夜ともなれば完全に闇が支配する。
やがてシーツの白さえも、彼に似合いのこの色を吸いこんで黒に染まってしまいそうだ。

鋭敏になった聴覚が、ドアが開かれたことを知らせた。一瞬だけ廊下の外気が流れ込み、すぐに途切れる。

暗闇の中でも目の利く彼は、迷うことなくなまえの横たわるベッドに近付き、シーツにくるまっているなまえの傍らに腰を下ろした。
なまえの肩がびくりと震える。
その肩を抱き寄せて、蝙翔鬼は剥き出しの耳に歯を立てた。

痛みに短く息を飲んだなまえを、今度は緩やかに舌で舐めあげる。熱のこもった吐息が耳朶をくすぐり、首筋へと滑っていく。



――ゆっくりと圧しかかる彼の身体を、なまえは今日も拒絶できないままだった。




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