□よいこわるいこ
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いい子ならご褒美がもらえる。

悪い子ならおしおきをされる。

どっちがいいかなんて聞かれたら、そりゃあもちろん『いい子』の方が得に決まってる。
だから私は、いい子になるのだ。

先輩だけのいい子に。



よいこわるいこ




汚れてしまった衣服を着替えて、顔と手を綺麗に洗って、髪を元の通りに整えた。
赤色は全て水に流すのだ。うっすら色を帯びた水が排水溝へ流れてゆくのをしっかり確認してから、私は報告のため先輩の部屋に向かった。

ぐしゃぐしゃのみっともない格好では、先輩の前に出られない。
道程の途中にある、飾り気も素っ気もない姿見の前でくるりと一回転してみる。痕跡は何一つ残ってはいなかった。



「──終わりました、先輩」

暗く閉め切った自室で、革張りのソファにゆったりと座る先輩はただ「そうか」とだけ呟いて私を手招いた。

その手の命じるままに近付いたら、急に腕を捕まれた。
強い力で引かれた私はバランスを崩し、先輩の固い胸板に飛び込む形になる。筋張った手はひんやりとしていて、少しばかり激しい運動で上がった体温にはちょうど良かった。

「──いい子だ」

片端がつり上がった、薄い唇が私に降る。
額に、瞼に、鼻の頭に、頬に。
そして、唇に。

「いい子だ、みょうじ」

「……蝙翔鬼先輩」

ぼう、と霞んでゆく頭に先輩の顎が乗せられる。それは決して不快ではない重みだ。後頭部を髪を梳くように撫でられて、私は心地よさにうっとり目を閉じた。



私はいい子。
だからこうして可愛がってもらえる。

──あの人は、悪い子だった。
だからあれはおしおきなのだ。

先輩に仇なそうとする者はみんな、先輩の代わりに私がおしおきしてあげる。ただ、それだけのことなのだ。



「いい子だ、なまえ」

麻薬のようなその声に、私は今日も酔いしれる。



了.


こういう系統も、いわゆるヤンデレになるんでしょうか。相手至上主義で何が何でも絶対服従みたいなタイプ。
私がこんなに好きなんだからあなたもそうでしょ当たり前よね?ってタイプよりも、個人的には空恐ろしいと思います。

蝙翔鬼先輩が本当に一定以上の好意を持ってくれてるのか、ただの駒扱いなのか、それはどっちでもいけるかなあ。お好きなようにとっていただけると嬉しいです。
 

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