□黒猫と魔術師
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「今からティータイムなんですが、よろしければご一緒しませんか」

そう誘われて即座に返事が出来なかったのは、彼の笑みに少しばかり不純なものを感じたからだった。



「ケーキもたくさんありますよ」

そう告げられて即座に返事をしてしまったのは、既に私の弱点を知り尽くした彼の、言葉通り甘い罠にまんまとはまってしまったからだった。





黒猫と魔術師






「──薄々勘づいてはいたんですよ。
きっとお茶を飲んだりケーキ食べたりするだけじゃなく、私はなにかしらのみだらな振る舞いをされるんじゃないかしらって……
……でも正直これは予想外です。
こんな趣味がおありになったんですね先輩」

「おやぁ?君、今日が何の日かご存知ないんですか?
堂々と仮装しても許される、あのハロウィンですよ。
楽しまなくては損だと思いませんか?」

「普段から堂々としてるじゃないですか、仮装」

「仮装だなんて心外な、これはれっきとした正装ですよ。
私は魔術師ですからね。

……そして愛らしい黒猫は、魔術師の膝で丸くなってこそなんですよ」

どことなくねっとりした手つきが背筋を撫で上げた。
むきだしのそこが、ぞわ、と粟立つ。

……本当に猫だったら、毛を逆立ててかみついてやるのに。



「さ、みょうじ君。次は何をご所望かな?」

「……レアチーズ」

目の前の白いテーブルには、宝石のようにきらきらしく輝く色とりどりのデザートが広がっている。

用意されたたったひとつのフォークはディーノ先輩の右手に操られ、私の口へと運ばれていく。

ゆったりと椅子に腰かけたその膝に、有無を言わさず乗せられたままで。

「……それに、その手では食べられないでしょう?」

「最初からこうなることがわかってたんですね。
結局、私は先輩の思い描いたシナリオ通り踊らされたんだ」

恨みがましく唸っても、すでに遅かった。



──柔らかな肉球が付いている、猫の前足をかたどった手袋は著しく私の指の動きを制限していて、物を持つことなんてとても出来やしない。

ぴんと立った三角の耳、動く度揺れる尻尾。赤い首輪には、ご丁寧に大きな鈴まで取りつけてあった。
極めつけは、最小限の部分しか身体を隠さないベルベットの上下だ。

唯一の逃げ場として与えられた彼のマントの中に、思う壺だとわかっていても潜り込んでしまう。



「ほら、次はどれを召し上がります?
まだまだたくさんありますから、ご遠慮なさらずに」

「……ショートケーキ!」

半ばやけになって叫んだ私の口内に、ふわりときめ細かい生クリームが差し込まれる。瞬時に、ぱくんと素直に飲み込んでしまった。

「ふふ。可愛いですよ、みょうじ君」

「……先輩の悪趣味」

「あ、そうだ。
ケーキもよろしいですが、次の衣装も決めておいて下さいね」

「まだあるんですか!?」

悪戯は、まだ始まったばかりのようである。



了.







ハロウィンにかこつけたみだらな振る舞い。
ディーノ先輩は人を着せ替え人形にして遊びそうなイメージです。イメージ。

次ページは会話文だけのディーノハロウィンネタ、拍手にしようとして没になった短文です。

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